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〖第87話〗
しおりを挟む真波は続ける。
「近現代で言ったら、かなり有名な画家だよ。個人蔵が多くて展覧会はあまりやらないなあ。奥さんの絵がほぼ全部。娘さんの絵も綺麗だよ。あ、美雨さんに似てるかも。俺の憧れかなあ。あんな風に愛する人を描き続けられたら幸せだろうな。まあ、俺にとっての今だね」
私は真波を見た。私はあの家に、父に母に『要らない』って言われてるような気がしていた。ちゃんと、必要とされたかった。屈折した承認欲求と、焼きもちだとは解っている。意地はって。いじけて。馬鹿みたいだった。自分で自分を罵っても、父さんがあんなに早く逝くなんて。知っていれば、した後悔も、しなかった後悔もなかった。
「私その画家の絵、見たいの。何処に行ったら見られるかな」
「一樹の親父は確か、斎藤画伯のコレクター。あいつん家、家が、画廊だし。簡単に言えば桁が違うお金持ち。」
──────────
三が日も更け、夜に差し掛かる頃、あの三人がホラーのDVDをもって遊びに来た。それと、お年始にと有名漬物店の私と真波が大好きな奈良漬けと、ふじリンゴ三個を持って来た。一樹の家のお年始の中の果物かごから失敬したらしい。お夕飯はお正月らしくお節の残りとお雑煮とこづゆを振る舞った。
「すごく美味しいです。貝柱が上品で。日本酒に合います」
「餡ころ餅美味しいです。きなこ餅も。栗きんとんじゃなくて、初めてこのきんとん食べました。これは、何ですか?」
「ユリ根よ。ユリ根のきんとん」
私は苦笑して言った。どうやら敬一は辛党、敬二は甘党みたいだ。一樹はお雑煮に感無量だった。泣き上戸だったのか、おばあちゃんの鍋を思い出すとセリを美味しそうに食べていた。
食後みんな満腹になっている中、一樹が、
「遅れました。お節めっちゃうまかったです。こっちも遅れましたがお年始です。父に斎藤画伯の娘さんの話をしたらこれを、と。遠慮されても置いてこいと言われました」
と言い少し大きい箱を私に手渡した。声のトーンが落ちた。
「開けて良い?」
「どうぞ」
一樹は真剣に、敬一と、敬二と真波は何が出るか固唾を飲んで見守っている。中から出てきたのは父の絵だ。私と母が描かれている。少し私を笑顔に描いた父に苦笑する。
「斎藤画伯の、遺作です。手紙がキャンバスの裏に手紙がありました」
手渡された黄ばんだ手紙。絵のモデルを引き受けてくれて嬉しかったことが長々書いてある。下手くそな字だ。
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