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〖第86話〗
しおりを挟む季節は春以外の季節。頻繫に二人は出かけて行った。そして冬の父の部屋は綺麗なドレスを来た母以外、入ってはいけなかった。私はつまらない。
十五歳の誕生日、母に促されドレスアップした私は初めて父に描かれた。父に描かれることは、お化け屋敷に要るくらい不快に感じた。
部屋や、父の画材が、イーゼルが言っているようだった。父にまでも。
『此処はお前の居場所じゃないよ』
『お前の母さんしか要らないよ』
そう言われているようだった。唯々不快な感情のみ残して、私はキャンバスに映された。
「出来上がった絵は額装するね。高校進学祝いだ」
私は鼻白んだ。前々からピアノがやりたいけれど壁にぶつかって進路を変えたと知っていたはずなのに、何故進学校を選んだことを何故何も言わないのか。母さんから何も聴いてないのか。聴こえなくなったピアノの音を、この人は何も訝しむことはなかった。いつも家に居るなら嫌でも私のピアノの音は、聴いているはずだ。私は言った。
「要らない。気持ち悪い。あんたが描いたのは若い時の母さんよ。もう永遠に出会えないね。時間だけは巻き戻せないから。ざまあみろ。こんな進学祝いなんていらない。私はピアノの才能が欲しかったよ!」
まともに、父と会話したのはそれが最初で最後。
「美雨を描いておきたい」
そう言われて指定された綺麗な服を着て一回一万円のモデルは何回かやった。空しかった。虚構の若かりし母ばかり映す父が哀しかった。ずっと母の絵ばかり取りつかれたように描いていた。
父は弱くなったが生きぬいた。その父がいなくなった。母の受けた衝撃は大きかった。母の一部となっていた父は死んだ。どうしても埋められない『父』という穴を、母は、何かにつけてお金ばかり要求する、馬鹿みたいなものばかり買わせようとするタチの悪い『神様』なんかじゃない俗物に転んだ。
絵は懇意にしていた会社の社長さんに買い取ってもらった。母は残った父さんの描いた絵を売って『神様』や『教祖様』に貢いだ。
──────────
「どうしたの? 美雨さん怖い顔して。美雨さんは笑った顔の方が似合うよ。折角のお正月なんだからさ」
「うん。あのさ、真波は『斎藤拓磨』って画家知ってる?」
「知ってるよ。すごく有名だよ」
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