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〖第84話〗
しおりを挟む毎年恒例の二匹は、掃除の後に、少し経ってから予約していた今年最後のトリミングと検診をしてもらった。
「おはぎ君も、だいふく君も、元気ですよ。特に変わったことはありません。立派な二匹ですね。全部終わりです。良いお年を」
だいふくとおはぎを猫用キャリーケースにいれて持った。真波も一緒に来てくれて、私の持っているケースを軽々持ってくれた。私はあまりの重さに、
「ダイエットさせようかしら」
小さく言ったつもりだったのに、『みぅ、みぅ』と二匹が鳴く。まるで『嫌だよぉ、嫌だよぉ』とでも言っているようだ。
「このたぷたぷお腹でも、問題ないのが不思議よね」
可愛い、可愛い、おはぎとだいふく。どうか長生きをして。
──────────
毎年恒例、年越し蕎麦には桜海老と玉葱のかき揚げ。牛蒡の天ぷらを食べる。そして、紅白も終わり、小さな近所のお寺に行く。
平日は閑散としているだろうと思われる境内。大晦日の今は出店まで出て、明るくて夢のようだ。
幻のようなカウントダウン。
新年を告げる鐘。
『ハッピーニューイヤー』の、若い子のグループから聴こえる声。
私も昔、友達と『おめでとう!』と言いながら甘酒で乾杯したっけ。いつも一緒ねと微笑みたくなる。その声たちと連鎖するように打ち上がり、空を彩る大きな花火。怖いくらい綺麗だ。
「明けましておめでとう。良い年にしようね」
「うん。明けましておめでとう。あ、美雨さん、ちょっと待っててね」
真波は人混みをかき分けるのがうまく、すいすい人混みを漕いで見えなくなった。少しの間真波とはぐれた感じがした。心細い迷子の子供の気持ちがした。真波の居場所を探した。真波は背が高く、皆と約頭一つ分出てるので、すぐ見つかった。
出店で真波は何かを買ってくれたようだった。真波は得意気に、人波に逆らってこっちに向かってきた。
「美雨さん。これ、甘酒飲んで。あったまるよ」
「あ、ありがとう。嬉しいよ。ここの甘酒、生姜が効いていて美味しいの。乾杯しよう。新年に」
「乾杯。ほんとだ。美味しい」
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