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〖第82話〗
しおりを挟むここで二人の想いの違いを明確にしてしまったなら、全てが簡単に終わってしまう、この脆い関係を、私は狡いから、真波と少しでも長く一緒に居たいから、見てみないふりをする。
この恋は、真波にとって通過点だ。いつも通り身体に悪く、何かを潤す煙草の灰、塵と同じように消えてしまうものと同じだ。
「愛してる。美雨さんがどうしようもなく好き」
真波は抱き合ったあと私の髪を大きな手で絡ませて言った。
「髪さらさらだね。俺、美雨さんの髪、大好き」
「さらさらであるように努力してるのよ。真波が私の髪で遊ぶの好きだから」
私が真波にくるりと向かい合って、そう言い真波の頬に触れると真波は私の指先にキスをして、
「ありがとう」
そう言い、私の身体をぎゅっと抱きしめる。
「苦しいよ、真波」
「幸せで、怖くて」
「お正月もあるのよ? 幸せの実感ラッシュよ。お節作るの手伝って。足りないのは買い物に行こう?除夜の鐘をつきに行って、初詣行って。………ごめんね、説明しとくね。クリスマスのときはごめんね。初詣は、シンプルな恒例行事なの。一年の決意表明をただ、神社って言う場所でしてくるだけ。甘酒飲んで、正月気分を味わいましょう。『ずっと一緒にいる』んでしょう?」
「ずっ……と、一緒に……いたいよ」
夢うつつの中でも、彼は『ずっと一緒にいたい』と言う。隣で可愛らしい寝顔、すうすうと静かな寝息をたてる真波。愛おしくてたまらない。だから、私は真波の髪を撫でる。ベッド際のライト。浮かび上がるる綺麗で若い真波の頬。何処か私は切ない。
──────────
年越し行事は健康的に慌ただしかった。大掃除は二人で窓を拭いた。真波が高いガラス窓を拭くときの真剣な目が色っぽいと見惚れてしまった。私はサッシを拭き、細かいところを拭く係だったが、勝手に上機嫌になり、毛が固めの量販店で買ったブラシの箒で家中を掃いて、掃除機をかけて……といつものように張り切りってこなし、あっという間に大掃除をあらかた終わらせていた。
私がほとんど先回りして掃除してしまうものなので真波は窓拭き以外、この行事に参加していない。大掃除を終えて、簡単に済むからと私は二人分の炒飯を作った。真波はふくれっ面をして言った。
「美雨さん、どうして俺を頼ってくれないのっ?」
そんなに俺は頼りない?そう続けた真波は、珍しく怒っている。
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