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〖第76話〗
しおりを挟む「ゆっくりお家へ帰ろう?帰ったら手を洗って、紅茶を淹れて、ケーキを食べよう? 貰い物だけど美味しい茶葉があるの。アッサムティー。丁度モンブランに合うって聴いてたから良かった」
「美雨さん」
「何? 真波」
「美雨さん。あなたが、好きだよ。手を離したりしないよ。あなたを幸せにしたい。ずっと一緒にいたいよ。ずっとなんて、まやかしだなんて、言ういる人もいるけど、美雨さんがいない世界に、俺は興味はないよ」
真波が傘を持ち、私がケーキを持つ。真波の肩が濡れている。私を庇っているからだ。ゆっくり歩いて、家に帰った。今気づいた。真波はいつも私の左を歩いて、歩調を合わせてくれる。ずっと、か。真波とこのままずっと恋人でいられたらいいなと、思わずにはいられない。
けれど、ずっと心でお互いを思い続けたら、必然的にその年の分、お互い身体は年を取る。私はおばあさんになり、真波はおじさんになる。年齢的に真波は還暦の私を、古希の私を愛してくれるだろうか。それは解らない。
まだ、付き合って時間も経たない私達は、明日すら解らないのだから。
もしこの情熱のまま一緒にいることが出来たなら、別れは当然私が先だ。置いていきたくないな、と思う。私を抱きしめて、『愛してる』と『あなたが、好きだ』と優しく呟く、傷つきやすい、いたいけな少年のようなこの子を。またこの子は思ってしまうはずだ。置いていかれたと、また、独りぼっちだと。
──────────
今日はいよいよクリスマスだ。私は何かに対して狂信的になる人が怖い。母を思い出してしまう。私は何かに夢中になる自分がいると無意識にブレーキを踏む。危険だと。
だから今、流行っている『推し』は無理な話だ。会社で夢中な歌手について訊かれたり、推しの俳優について訊かれても、
「そうだね、流行ってるよね。スタイルいいよね」
「うん、今話題だね。あの人演技うまいよね」
さらりと褒めるが好きとは言わない。推しじゃない人を推しの人の前で『夢中なフリ』をして話せば、いずれボロがでる。
「クリスマスってなんか、幸せなワードだね。神様っているのかなあ。いて欲しいな」
真波が商店街のアーケードの少しくすんだガラスの天井を仰いで言った。
「クリスマスは好きだけど、神様は解らないな。私は商店街の福引きか、トイレで膝震わせるほどお腹痛いときくらいの時しか呼ばないし」
真波は吹き出して大笑いした。
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