氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第72話〗

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「あっちのお家、荷物ないならなら掃除は要らないね。あのさ、真波。感情がつまったものを無理に捨てるのは、必ずしもいいことではないよ」

 私は言いたいことと逆のことを言う。私の苦手で嫌いな言葉の駆け引き。素直に『何が入ってるの?』と訊けばいいのに。

「大丈夫。へこむ物ではないから。昔の人関係じゃないよ。明日、見せるよ。やましいものではないし。美雨さん、今日、抱いて良い?何か不安で、怖いんだ。触れてないと幸せが逃げていってしまいそうで。ごめんね。こんなデカい図体して、ノミみたいな心臓で」

 そう、真波は言い、一緒にシャワーを浴びた。

「頭洗ってあげるよ」

 少し恥ずかしい。ちゃんと染めてるけど白髪とか、ないかな。そんなことばかり考える。

「ありがとう」

「俺も洗っちゃお」

 しゃばしゃばと、真波も髪を洗う。短い髪が泡立って、もこもこの白いアフロみたいで可愛い。

「真波、座って」

 小さい風呂椅子に真波をかけさせ泡を流していく。真波は顔を濡れた手で拭いて、髪をかき揚げた。

「やっぱり美雨さんは、コーギーじゃないな。瞳はコーギーに似てるけど、やっぱり長毛種の猫だ。おはぎとだいふくの親みたいな、可愛いロングコートのタキシード猫だよ。髪、つやつやしていい匂い」

 私は親にはなれないから。あの子たちの親と真波に言われて本当に嬉しかった。もう、年だもの。それに、仕事に穴は開けられない。私の生きてきた証のようなものだから。

──────────

 フリマアプリの取引は滞りなく終わった。中々すごい額のポイントが貯まった。真波に感謝だ。そして、真波の荷物の仕分け。と言っても、

「俺のものは少ないし、仕分けても面白くないよ」

「そっか。でも、気になるな。真波の私物」

「んじゃ、俺の手伝って。大したものじゃないけど」

 無理させて、笑わせている。気を遣わせていると感じた。たこ焼き器は壊れるまで、壊れたら修理しても使いたいと思った。ダウンコートはいる。黒のクラシックなコートも、いる。何かに貰ったけれど誰だかわからない、そう困った顔をされて出されたのは高級ブランドの趣味の良い香水。送り主は多分昔の彼女だと思った。センスの良さに微笑む。いる。

 真波のコレクション。クラシックのCD。リパッティとバックハウスが好きみたいだ。いる。他は最低限の区分けした衣服。真波に聞いたら「これで全部だよ」とのことだった。
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