氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

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〖第71話〗

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「たまご、たまご」

 私はたまごの黄身を取り皿に取り、汁に溶かしてから食べるのが好きだ。

「待って、待って美雨さん。美味しいたまごの使い道があるんだ」

「たまご………」

「我慢して。本当に美味しいんだ。ほら、白身は食べていいから」

 真波は真剣にそう言った。私のたまごへの執着を、真波が冷やしておいてくれた追加のビールで白身を頬張ることで忘れ、最後の厚揚げをめぐってじゃんけんをしたのに、負けた真波がごねたので、私はクスクスと笑いながら半分個をした。

「どうして笑うの?」

 少し不貞腐れながら、真波は言う。

「いや、可愛いなって思って。馬鹿にしてるんじゃないの。私はほら、童心に帰るとか、大人げないって言葉があるけれど、真波はありのままだもんね」

 あからさまにむくれながら、 真波は、

「いつまでたってもガキのままだよ」

「私は、真波がナイスミドルでも、おじさんでお腹が出てても好きよ」

「俺は、美雨さんが二十歳でも、もちろん今も、還暦過ぎてても変わらないよ。可愛いお洒落なおばあちゃんなんだろうな」

 たまごを上手に、つゆと混ぜて、ご飯を混ぜた。

「これ、シメだよ。美味しいよ。あんまり見た目がよくないけど。俺、家でおでんするとさ、シメは必ずつゆご飯だった」

 一口、どきどきしながら食べた。おだしを吸ったご飯がまろやかで、初めて食べる雑炊みたいった。

「美味しいね。まろやか。すごく美味しい」

「気に入ってもらえて、良かった」

 私はわざと行儀悪く最後の一口をかきこんで食べた。頬張りながら笑う。たまにはこういうのも良い。

「ねえ、真波の家はかたづいてるの?」

 ビールの最後の一口をのみ干した。

「片付いてるよ。必要なもの以外売ったり捨てたりしたし、ここにアトリエ作らせてもらったからあそこには最低限の画材だけしか残ってないよ」

 真波の表情が翳る。

「大掃除、一緒にしよ?」

「んー。あそこは仕事場。美雨さんも職場の掃除ってしないでしょ。あそこからここへ来るときに荷物は全部持ってきた。だまっててごめん。あの銀のスーツケースは、次の日持ってきた。俺の大切だけど、選別必要な過去かな。明日するよ。まあ、悲しい気分になるだけの要らないものだよ」

 チリッと胸が痛む。過去は捨てられない。真波の附随するものは何だろう。描いた絵?手紙?それにあの家を引き払わないのは私と別れるとき楽だから?不安が育っていく。つるを延ばして、するすると。
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