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〖第69話〗
しおりを挟む真波の撮影の写真も上手かった。売り文句は真波が考えてくれて、出品する度、売れていった。
「夜九時半、完売!凄いよ!一日でだよ! あとティファニーの指輪、初めて見た。明日送ろうね」
お疲れ、真波。そう言いソファで真波を膝枕し、私は言った。
「真波ってアラスカンマラミュートに似てるね」
「俺、犬なの? 酷いよっ」
プイッと、真波は横を向いた。子供じみた行動を不思議に思い訊いてみると、恵理子に、
『あんたなんか単なる飼い犬のくせに』
そう言われたことを私に口を尖らせ言った。可愛いなと思う。こんな、いたいけな少年の表情で拗ねられたりしたら、宥めるしか私には出来ない。
「ウェルシュ・コーギーを散歩しているご近所さんを見て、真波は私に『美雨さん似てるね』って言ったわ。コーギーは好きだけど、私、足あんなに短くないわ。平均だと思うけど。少し前、ベッドの後、髪を梳いて『長毛種の猫』って言ったのに。まあ、動物はどれも好きだからいいわよ。なんてね。アラスカンマラミュートはあなたの第一印象だったのよ」
「第一印象?」
私は初めてあった真波の印象を話した。真波に会ってからもうすぐ二ヶ月になろうとしている。私は初めて酔いつぶれて冷凍になるところを助けてもらった朝のことについて話した。
けれど、酔いがまだ残っていたのか、ホットケーキを焼いてくれた指に、知らないふりをしていたけれど、色っぽい指だと見惚れたこと。
アカシアの蜂蜜がこんなに柔らかく口に纏わって、今この子とキスしたらもっと甘いのかな、なんて馬鹿なことを思ったことなんかは真波には言ってない。いつ言えばいいのか。タイミングを計っている。
「目覚めた私を見る瞳がやさしくて、穏やかで、立ち上がってメイク落としシートを渡したあなたは身長が大きくて、私は『アラスカンマラミュート』だって思った。賢くていつも穏やかに笑っているような表情のやさしい大型の犬。気に入らない?」
真波が身体を起こして私に口づけた。
「嬉しいよ。いじけてごめん。美雨さんが似てるのはコーギーの瞳。オニキスみたいな。笑顔が可愛いんだよ。でも美雨さんは天然で笑顔が可愛いとは少し違う。いつも笑顔であろうとしている。だからいつも笑った顔しか皆知らない。せめて俺の前では無理しないで」
真波もね。無理しなくていいのよ。そう思いながら、真波を胸に抱いて髪を撫でた。
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