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〖第65話〗
しおりを挟む二匹の来訪に一番喜んだのは、敬二だった。真波は自慢げに言う。
「可愛いだろ? ベッドに潜ってくるんだ。温かくてホッとする。毎日美雨さんがブラッシングしてるから、毛がふわふわで気持ちいいんだ。大人しくて優しい子達だよ」
敬二が、目を輝かせて、私を見て、
「触っても、いいですか?」
「いいよ。猫、好きなの?」
「生き物が。特にこの子達は、いっぱい美雨さんから愛されたんですね。丸くて優しい形で、暖かい色をしています」
そう言うと敬二は「おいで」とおはぎとだいふくに言った。液体みたいな、特殊な声だと思った。
「少し、弟変わってるんです。でも、本当に温かい絵を描くんです。動物を描くのが得意で。今回のことも俺が巻き込んじゃった感じで。あいつ悪くないんです。責任は取るってきかないですけど、あいつのことだけは悪い奴だと思わないで下さい。絵の才能だけ、ずば抜けてある、子供のままなんです。だから、俺が傍にいないと」
小さい声で敬一は私に言った。そんな敬一の言葉を知らず、敬二は楽しそうにおはぎとだいふくと遊んでいる。
「大丈夫っていう見極めをして、丁度良い時に手を離すタイミングを逃さないでね。それからいつでも助けられる位置で、見守れば良いんだから」
「はい。姐さん」
「あ、姐さん?」
私が驚いていると、
「『美雨さん』は真波の専売特許ですよ。俺たちは『姐さん』で」
そう、黒のセーターを着ているのに、だいふくと遊ぶのでセーターに白い毛がたくさんついた一樹は言った。
「『美雨さん』でいいわよ。大切なのは何て呼ばれるかじゃなくて、誰に呼ばれるかよ」
私は笑って、
「正座はもういいよ。ソファにかけて。紅茶淹れるね。輸入菓子のシナモンビスケットもあるの。安いし、美味しいのよ」
来客用のウエッジウッドのティーソーサーとカップのセットがあったことを思い出した。少しの見栄を張り、ケトルにお湯を沸かし、お揃いの柄のティーポットにダージリンの茶葉を入れ、茶葉を開かせてからティーカップにそそぐ。真波と私は椿の花が描かれたお揃いのマグカップだ。
仰々しくブランドのトレイに並べられたのウエッジウッドのカップを見て、この子達にまで虚勢を張って、何がしたいのだろうと思った。
彼らは本音と建前を使わなければならない会社の人ではない。恋人の友達だ。キッチンから、紅茶をソファの前のローテーブルに運ぶ。
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