氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
65 / 94

〖第65話〗

しおりを挟む

 二匹の来訪に一番喜んだのは、敬二だった。真波は自慢げに言う。

「可愛いだろ? ベッドに潜ってくるんだ。温かくてホッとする。毎日美雨さんがブラッシングしてるから、毛がふわふわで気持ちいいんだ。大人しくて優しい子達だよ」

 敬二が、目を輝かせて、私を見て、

「触っても、いいですか?」

「いいよ。猫、好きなの?」

「生き物が。特にこの子達は、いっぱい美雨さんから愛されたんですね。丸くて優しい形で、暖かい色をしています」

 そう言うと敬二は「おいで」とおはぎとだいふくに言った。液体みたいな、特殊な声だと思った。

「少し、弟変わってるんです。でも、本当に温かい絵を描くんです。動物を描くのが得意で。今回のことも俺が巻き込んじゃった感じで。あいつ悪くないんです。責任は取るってきかないですけど、あいつのことだけは悪い奴だと思わないで下さい。絵の才能だけ、ずば抜けてある、子供のままなんです。だから、俺が傍にいないと」

 小さい声で敬一は私に言った。そんな敬一の言葉を知らず、敬二は楽しそうにおはぎとだいふくと遊んでいる。

「大丈夫っていう見極めをして、丁度良い時に手を離すタイミングを逃さないでね。それからいつでも助けられる位置で、見守れば良いんだから」


「はい。姐さん」

「あ、姐さん?」

 私が驚いていると、

「『美雨さん』は真波の専売特許ですよ。俺たちは『姐さん』で」

 そう、黒のセーターを着ているのに、だいふくと遊ぶのでセーターに白い毛がたくさんついた一樹は言った。

「『美雨さん』でいいわよ。大切なのは何て呼ばれるかじゃなくて、誰に呼ばれるかよ」

 私は笑って、

「正座はもういいよ。ソファにかけて。紅茶淹れるね。輸入菓子のシナモンビスケットもあるの。安いし、美味しいのよ」

 来客用のウエッジウッドのティーソーサーとカップのセットがあったことを思い出した。少しの見栄を張り、ケトルにお湯を沸かし、お揃いの柄のティーポットにダージリンの茶葉を入れ、茶葉を開かせてからティーカップにそそぐ。真波と私は椿の花が描かれたお揃いのマグカップだ。
 
 仰々しくブランドのトレイに並べられたのウエッジウッドのカップを見て、この子達にまで虚勢を張って、何がしたいのだろうと思った。
 
 彼らは本音と建前を使わなければならない会社の人ではない。恋人の友達だ。キッチンから、紅茶をソファの前のローテーブルに運ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら

美咲 如
恋愛
熱を出した私を見舞いに来てくれた、ワンコ系後輩に食べられる話。 料理上手なワンコ系狼男子×私生活は喪女なキャリアウーマン。 ※ムーンライトにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...