氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第58話〗

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 勝手な憶測だけど、真波は誰か無意識に愛していた人を描いているのではないか。恋という感情にさえ気づけなかった切ない恋。誰かは解らないけど、私くらいの年齢。引きずり続ける人。誰だろうか。

 私は歪んだ鏡でありたくなかった。だから私は昔発表した、真波の絵を、インターネットで見られる絵は全部見た。家にある絵と同じだった。描いてある人は違くても、基になる人は何処か共通項があった。私と同じ表情。何処かで見たことがある、瞳。

 認めたくなかったけれど、行き着いた答えは、前にパスケースで見せてもらった真波の家族写真にあった。真波の『母親』そのものだった。答えが出るのにあまり時間はかからなかった。

『最期のお別れもできなかった』と彼は私にそう言ったが、真波は、本当は『見た』のかもしれない。母親の最期の悲しい姿を。そして、それを解った上で、綺麗な昔の姿の母親を描き起こしているのではないか。甦らせているのではないか。

 キャンバスの中で、真波に微笑みかけ、真波だけを愛し続ける母親を真波は描き続けている。

 私は母親なの? 真波。そう真波に訊きたい。それが真実なら、現実はあまりにも残酷だ。私が調べたのは、他にもある。過去の真波が交際歴がある女性と発表した絵の共通項。皆、猫を二匹飼っている年上の女性だった。私と猫との繋がりが、出逢ったばかりで何故解るか。それはスマートフォンの待ち受け画面だ。おはぎとだいふくのツーショット。

 あの時、私が共通項に入らなかったら、カラス避けネットに雪に埋もれていた無様な私に見向きもしなかった?私はあなたの人生にいらなかった?

 確かに家族の話をする時、ほとんど真波は母親の話をする。いつでも、必ず母親が割り込む。ここまで調べていくと、今、寝室にある絵は、真波の母親のように感じる。まるで、情事まで姑に監視されてるみたいだ。

 寝室に行くのが嫌で、リビングのソファで寝る。真波は何も言わない。上部だけになりつつある関係に辟易する。

 何を食べても美味しくない。味がしない。いつの間にか体重が三キロ落ちた。真波は洗面所で歯を磨く痩せこけた私を鏡越しに見て無表情に言った。

「美雨さん。誰でも触れられて嫌なところはあるでしょ?」
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