氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第57話〗

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 私は笑った。涙が溢れた。真波に会ってから泣いてばかりだ。ここまで心を許して、安心できる場所になった人は今までいなかった。

「絵でも、見ようか。月展用の絵。ほぼ出来上がったけど『氷雨』って聞いて、もっと凛とした雰囲気のもいいかなって。もう一点書きたくなった」

 真波が寝室で披露したのは、おはぎとだいふくと戯れる、お気に入りのワンピースを着て母のカメオのバレッタをした私の絵と、物憂げな表情でシーツだけを羽織り、煙草を吸う私の姿だった。裸だけど、清潔感と色気が同居していた。

「綺麗ね。ほとんど裸なのに、全然いやらしくない」

「お褒めに預り光栄です。これはプレゼント。美雨さんの宝物も書いたよ」

 そう言い取り出した絵は、おはぎとだいふくがすましてポーズをとるような可愛らしい絵だった。写真より精密だと思えた。

 たてがみの毛のモフモフ具合も、しっかり再現してある。

「真波すごいね!可愛い。さわれそうね。可愛い。可愛い。ありがとう!あと、こっちの作品は盛った?私こんなに綺麗じゃないよ。違う人みたい」

「俺にはこう見える。バレッタ一生懸命綺麗に描いたよ。どう? 気に入った?」

「………何処か、悲しそう。でも、綺麗ね」
 
──────────

 一つの絵が引っ掛かった。カメオの母さんのバレッタをつけて、おはぎとだいふくと遊ぶ私。何か違和感がある。絵を描く真波に話しかけても、不思議そうな顔をされるだけだ。

 何だか雰囲気が、好きになれない。私だけど私じゃない。『じゃあ、誰?』ということになる。私は気になったら調べずにはいられない。真波に訊いた話を、夜、秘密裏に書きとめてネットで調べた。真波がいるときは全ての資料は隠した。

 真波がこの絵を描いた時の心境。何かに影響を受けたことはあったか。訊いたことを書いた。

 とにかく、はっきり言ってこの絵は気味が悪いのだ。綺麗だが死人みたいな顔をしている。何かが、ちぐはぐだ。それに私は、こんなに綺麗ではないし、薬指に指輪をはめたこともない。

 はめたとしても、オパールは私の誕生石じゃない。二月のアメジストだ。それにやっぱり顔に違和感がある。元々の私とは違う骨の上に、無理やり私の顔にするために、私を観察して肉と皮をつけた感じだった。無理やり私に似せて描いたような仕上がりだ。気持ちが、悪い。

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