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〖第56話〗
しおりを挟む私は黙り込み考えた。
「ベッド、お預りスペースに預かってもらおう。ううん、もう売っちゃおう?あのベッド、ほとんど使ってないから、高く売れる」
信じてくれた?そう言いたげに真波はじっと私を見つめた。私は『首寒そうね』と白いマフラーを真波に巻いた。真波はウインナーコーヒーを飲み干して、
「早くお家へ帰って、昼ご飯にしよう。朝の玉子と玉葱の味噌汁温めて飲もう。花びら、形だけだけど前のビルの花屋さんで、お花買って花びら撒きたいんだ。美雨さんも、撒いて欲しい。きっと皆、喜ぶから」
今更思い出す。今日は真波の家族の命日だ。
──────────
花を撒いた。雪と花びらの吹雪だ。舞い上がり、空と街の狭間に消える。いつの間にか雪は霙に変わる。
「霙ね。氷雨になるのかな」
「ひさめ?」
「うん。ひさめ。冷たい雨。氷の雨って書くの。『美雨』って名前の由来なの。凛とした美しい子になって欲しかったみたい。あと、毎日雪だったのに私の生まれた日だけ雨が降ったんだって」
私はそう言い、ちらっと隣の真波を見た。
「美雨さんは親御さんの思った通りになった。美雨さんは凛とした、綺麗なひとだと思うよ。桔梗の花や菖蒲みたいだよ。それでも、昼咲月見草みたいなやさしい姿もみせる。あ、それにほら、丁度雪に雨が混じってきた。あ、もう雨だね。氷雨だ!」
ベランダの柵に寄りかかる隣の私を見て、真波は微笑む。
「お花詳しいね。真波の名前の由来は?」
「花は妹と散歩して『あのお花のお名前なあに?』で鍛えあげられたからね。名前は最初父さんが、大きな海のような男の子で『真海』でマミだったけど、母さんが『あまねく物や人に愛される、波打ち際の小さな命の揺りかごになって欲しい』と言ったから、鶴の一声『真波』マナミになりました。母さん、身体弱くてさ。立ってるのがキツいから、料理はキッチンにスツールみたいな椅子で料理してた。いつもいい匂いがした。丁度美雨さんと同じ香水だった。病院通いで、病んだ臭いをさせたくないって、いつもつけてた」
「私の香水も、昔、母さんから貰ったの。つけたのは高校の時。うんと大人になった気がした。あれからずっと同じ香水を使ってるの。ディオールのデューン。砂丘って意味なんだってね。両親を散骨して、帰りに泣きながら砂浜の砂も持ち帰ったの。広い砂浜で、私にとってはあれは砂丘だったわ」
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