氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
52 / 94

〖第52話〗

しおりを挟む

 泣きながら、誰かに縋るなんてみっともない。そう思ってた。でも、あなたが変えた。あなたを失いたくなかった。余計に嫌われるなんて解っている。

「美雨さん、深呼吸して、話を聞いて。お願いだから話を聞いてよ」

「もう、嘘なんて聴きたくない。あの人と暮らばいい。私を馬鹿にしながら、あの子を描けばいい!」

──────────

 いつの間にか、粉雪から大粒の雪が降っていた。ひどい雪だ。雪なんか大嫌いだ。あの日、雪が降らなかったら、真波と会うことはなかった。今日も夜半過ぎに降るっていったのに。雪なんか降らなければ何も知らずにいられた。

「あいつの言葉と俺の言葉、どっちを信じる?」

「───」

「理知的に話そう。何処か喫茶店入ろう? 手袋してこなかったんだね。手がこんなに冷えてる。ごめんね………」

 また、パンダになっているのかな。どうでもいいことのはずだったのに。ショーウインドウに映る私は、どう見ても息子に世話される『可哀想』なお母さんだ。

 不幸中の幸い、パンダにはなってない。よく考えてみて、指や手に、アイライナーやシャドウがついていないことに気が付いた。そんなことさえ忘れてる。今、こうして真波と一緒に歩くまではここまで自分の見た目に固執していなかった。

 私が若くて綺麗だったら胸を張って真波の隣を歩けるのか。せめて、今の年齢でも、誰もが納得する美人だったら、周りからの無言の視線の圧力を感じなくて良かった。

 男の人はいいなと思う。どんなおじさんでも、下手したらおじいさんでも、若い女の子を連れていても当たり前のように街を歩く。稀に称賛に値するような映画のようなカップルもいる。

 でも、女性は男性のように老いてもなお、心は若々しく、素敵に年を重ねた女の人でも、男の人のように若い恋人を連れているのは、日本ではほとんど見かけない。

 真波は歩幅と歩調を合わせて私を庇うように左を歩く。暫くして、入口の雰囲気が良さそうな喫茶店を見つけた。静かなジャズが流れる間接照明の淡いオレンジ色のライトが柔らかな印象の雰囲気のいい店だ。

 真波はウインナーコーヒー、私はロイヤルミルクティーを注文した。熱い飲み頃のコーヒーとミルクティーが、丁度いいタイミングで届けられる。

「温かいね。ウインナーコーヒー美味しいよ。一口飲む?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

目が覚めたら

美咲 如
恋愛
熱を出した私を見舞いに来てくれた、ワンコ系後輩に食べられる話。 料理上手なワンコ系狼男子×私生活は喪女なキャリアウーマン。 ※ムーンライトにも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...