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〖第50話〗
しおりを挟む午前中、皆デスクワークだろうな。こんな惨めになるんだったら、会社を休むんじゃなかった。あそこなら私はどんなに馬鹿にされたとしても『部長』でいられる。私には仕事があると、胸を張っていられた。
ずっとそうしてきた。おはぎとだいふくと仕事、たまに会う親友。たまに出来る彼が生き甲斐の人生だった。
真波とのことを思う。素敵な一ヶ月だった。辛い一日で締め括られ全てが終わった。話に色んな矛盾があったことはあったけれど、きっと考えすぎだ。もう私はどうでも良かった。真波はクリスマスが来る前に、はっきりさせておきたかったのかなと思った。本当の彼女は恵理子さんだということを。
真波自身の口でどうして事実を言えなかったのか。そんなに私は可哀想だったのだろうか?真波。私が年甲斐もなくあなたに溺れるのは、そんなに哀しくて滑稽だった?……きっと、そうなんだろうなと思う。あなたの胃袋を考えたお弁当箱を買ってまで、二人分のお弁当作るなんて。馬鹿みたいだ。私やっぱり馬鹿みたいだったんだそう思い、チューハイを煽った。
雪が降っている。あの日はあんなに綺麗に見えた。ダイアモンドみたいに。今はただの塵みたいに見える。
真波、最後の言葉はあなたの口から訊きたかった。敢えて真波の口からじゃなくて恵理子さんに言わせるのは、優しさじゃない。卑怯だよ。解ってたはずなの、自分が一番解ってる。そうよね。こんなおばさん、私とあなたは釣り合わない。あなたには、素敵な人が似合う。
私はもう、いくら泣いても多分もう大丈夫。ウォータープルーフの高いアイシャドウとアイライナーを買ったから。マスカラも。何処か、真波とは別れの予感をしてたように、私は白痴のように笑みを浮かべる。
ねえ、真波。あなたは本当に全部嘘で出来ていたの?一割とは言わない。少しでも、ほんの少しでもいい。あなたの笑った顔、照れた顔、むくれた顔には『本当』があって欲しい。訊ける機会があれば訊いてみたいと思った。もう多分、訊く機会なんかないんだろう。そして私の欲しい答えもないんだろう。そして、『美雨さん!』なんて後ろからかけられる声を期待している自分が空しい。こんな年増の女を追いかけるなんて、ドラマでもあり得ないことなのに。
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