氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第40話〗

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 お腹もこなれ、私は食器を洗い、真波は乾いたタオルで食器を丁寧に拭く。手早く後片づけが終わり、空気清浄機を最強にし、換気扇の下で、私は冷蔵庫に軽く凭れ煙草を吸う。

 灰は蓋のついた缶の型をした灰皿に入れる。おはぎとだいふくが手を出したりしないように。避けられる危険はまわり道をして避ける。禁煙すればいいのに、と自分でも思うが、これは中々やめられない。
 
 ピースはチョコレートのような甘い香りがする。大学時代、私にとっての時の息継ぎが煙草とお酒だった。植物の、夜の呼吸は私にとって煙草を吸うことなんだろうなと思った。いつの間にか横に真波がいた。銘柄は彼もピースだ。

「煙草、吸うの?」

 同時の質問にお互い苦笑する。少し私が早く答える。

「たまにね。幸せなご飯の後とか」

「俺も」

 仰ぎ見ると、真面目な瞳があった。煙草を挟む節くれた指が色っぽいと思った。真波が『男の子』ではなく『男』に見える。

「吸い終わったら、客間案内するよ」

 そう言い煙草を口から離した私に、真波は自分の煙草を消して、私に口づけた。優しいけど、手慣れたキスだと思った。

「ピースのフレーバーは甘いね。あと、美雨さんも、甘い。客間じゃなくて、美雨さんの部屋を案内して」

 真波の色のある目つきで、捕らえられた私は、まるで大きく綺麗なクモの巣にかかった冴えない蝶々だ。真波の瞳は逃げることを許さない。カーテンを閉めるのも忘れ、雪を目の端において口づけを繰り返した。

 その夜は私のベッドで抱き合った。真波の身体は熱くて、耳元で私の名前を囁く声や、囁かれる私を呼ぶ声だけで、私も染まるように熱くなる。真波の広い背中に手を這わして『あなたが好き』と、真波に言う。今の私には、一番確かで、真摯な言葉。

 真波の肩が行き来すると、私は真波の背中にしがみつき、底の無い快楽が怖くて、真波の背中に爪を立てる。真波は、苦しそうな、けれど何処か幸せそうな顔をして『美雨さん』と、私の名前を呼んだ。動きが激しくなって、真波は眉根に皺を寄せて欲を吐いた。私も彼の脈打つ身体に感じ、達した。流れに委ねてした行為でも、彼はスキンをつけていた。 

休日が終わっても、毎晩抱き合った。少し寝不足だけど、満ち足りている。朝、挨拶のように触れるだけの口づけを交わす。

 夜、私は真波に捕食されるだけの冴えない蝶々になる。糸が日に日に身体に絡んでいく。私は真波に溺れつつある。心も、身体も。
                                                          
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