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〖第37話〗
しおりを挟む入れる具材を小鉢にわけて、真波は慣れた手つきで蛸を切る。私は結局『休んでて』といわれたのに、黙って見ていることが出来なくて、たこ焼きの粉を水を計って卵を入れて混ぜたりした。
何故か真波は、ホットケーキの素も準備万端にしてある。
タコパは順調に進んでいく。真波が持ってきた、たこ焼き器はおもちゃみたいだった。
私が『可愛いね』と言うと『美雨さん、馬鹿にしちゃいけないよ。ちゃんと電気屋で買ったよ、ちゃんと焼けるんだから』と口を尖らせた。
その年相応の可愛らしい真波が好きだと思って私は、
「真波くんのそういう素直なところ、好きだよ」
たこ焼きをくるくるひっくり返しながらそう言うと、真波は、
「美雨さん!お、俺のこと、好き?」
「好きじゃなきゃ、家にあげてない。でも、関係なんていつかは終わるよ。ただ、終わるとき、私は早く過去に出来ないタイプよ。多分、あなたを思って泣くんだろうね。何で大切にしてあげられなかったんだろうって。だから、そうならないようにしたいの。もう間違えたくないのよ」
真波が私のお皿に、串で真ん丸のたこ焼きをよそってくれた。綺麗な真ん丸。私は『ありがとう』と言う。何故だろう泣きそうだ。
「俺は、一度完成させたお気に入りの絵は手元に置く主義だから。美雨さんの気持ちが離れても幸せな過去の集合体みたいな絵は残ってしまう。永遠に美雨さんは俺の部屋で微笑みを浮かべて存在し続けるんだろうなあ。もし想いがなくなったとしても、一緒に過ごした時間は消えない。二人で過ごした時間は、実際にあったことだからね。今考えたくないけど、もし別れたら、きっと絵を見るたび思い出すよ。あなたと過ごした時間は最高だったって。そして、泣くんだろうな、きっと。美雨さん、これから楽しい時間を、どんどん増やしていこう? あー美雨さん!たこ焼き食べ頃!タレなんだけど、これも美味しいんだよ。醤油とマヨネーズ混ぜて、青のりも混ぜて。和風なんだ」
おずおずと、真波のとんすいに作られたタレにたこ焼きをつけて食べると驚いた。まだ熱さが残っていて、味が濃すぎずさっぱりしている。
「おいひい!」
「俺はいつも和風。俺だけの裏メニュー」
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