氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

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〖第29話〗

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嫌いなら、何処かで期待をしていなければ、スマートフォンに彼のメールアドレスをご丁寧に『狩谷真波』とフルネームで登録したりしない。

グループは《その他》だった。これから何て登録したらいいのだろうか。

二十分くらいして玄関のチャイムが鳴った。おはぎとだいふくはこの音が好きだ。誰か来て何か美味しいものをくれると思っている。

「美雨さん、俺だよ、俺。解るでしょ?」

「うん、今開ける」

鍵を開けると、冬の匂いと、真波の家の匂いがする。グレーのモッズコートに黒のざっくり編みのセーター。デニムに、黒の赤の線が入った古いスニーカー。

それに、使い込んだ風格のスポーツをする人がよく持っている大きな肩から下げるバック二つに山に住むかのようなリュックサック。

「いらっしゃい。外、また雪降ってるみたいね。今年は異常気象だわ。それにしても大荷物ね」

小学生のクラスメイトのお誕生日のお呼ばれのように、丁寧に揃えて脱がれた靴。長く履かれた彼の靴が、私のヒールと並ぶと大人と子供だ。

彼は大柄だから足も大きいんだな、と何故か感心してしまった。真波は私を見て言う。

「俺を暫くここに置いて欲しいんだ。お願いします。食費は払うよ」

「好きじゃなきゃ、家にあげて一緒に暮らせない。お金はいいよ」

「うん………でも、払わせて。いきなり押しかけてごめん。言われた通り、絵の具類は持ってきてないよ。絵は家でデッサンをもとにしたものを、面影と一緒に描くよ。でも今は、描きたい情熱三割。美雨さんに会いたい熱が七割かな。あのさ、夕ご飯食べた?」

「ううん」

「たこ焼きパーティーやらない?今日、ぼっちタコパやろうと思ってたから、材料とたこ焼き器持ってきたよ。ホットケーキの素も」

「真波くん、このすごい荷物の理由は大体解ったけど、どうやってきたの? タクシー?」

 真波は目の前に片手をパタパタさせ笑う。
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