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〖第28話〗
しおりを挟む「あと、最後に答えてあげるよ。直樹は、嘘つきよ。五年付き合って、前の前の家飲みデートで『きらきら光るもの、贈る』って言ったわ。私は待った。そうしたら、あなたに拾われた前の夜、あっさり『恋に落ちた』なんて言われて振られたの。相手とはもう関係があって、直樹の気持ちは私にはもうなかった。好きだったわよ。愛してたわ。だからつらくて悔しくて泣きながら家に帰る途中、お酒のせいで遭難したのよ」
真波は切ない声で言った。
「………美雨さん、あなたは『おばさん』じゃないよ。少なくとも俺には『おばさん』じゃない。俺には、あなたを抱きしめる腕も胸もある。美雨さんにとって、ただの寄り道でもいい、気の迷いでもいい。絵が仕上がったら終わる関係でも良い。俺を軽薄なクズだと思ってもいい。それでも、俺はいい。会ったばかりだけど、関係ないよ。会いたいよ、会いたい、美雨さん」
あの瞳を思い出す。おはぎとだいふくの瞳。あの人の瞳。真波の切実に訴える声が、より痛い視線で自己主張する瞳を私に思い出させた。私は折れた。
「………一度しか言わないから良く聞きなさいよ」
私は住所とセキュリティの番号を言う。
「すぐ行くよ。待ってて。あと、………少し居候させてほしいんだ」
清算、したはずの女の子に追いたてられているのかしら。私は小さく笑った。
「構わないわ。あ、絵の具類は駄目よ、おはぎとだいふくがいるから。真波くんは動物好きよね」
「う、うん。美雨さん、和菓子は何か関係あるの?」
来たらすぐ解るよ。そう言い、一言二言会話をして着信を切った。嫌な気持ちが霧散して、苛々していた気持ちは何処かへ行った。こんな年で、あんな若い子に熱をあげてる。みっともないと思うのはやめにしよう。素直にならなくて、何回失敗したか、解らない。
直樹のときも、そうだった。恋愛なんて一対一の関係。誰に恥ずかしいなんてない。罪を犯しているわけじゃない。後ろめたいことなんてしてない。他人にどうこう言われても気にしない。
あの大型犬のような彼が来る。部屋を片付け始めて暖房を強くした私はやっぱり年甲斐もなく浮かれている。
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