氷雨と猫と君〖完結〗

〖第26話〗

　真波は続けた。

『独りが怖くて、身体中が恐怖や不安の暗いマーブル模様に浸かる感じがしてさ。それから、身体の関係だけの子をたくさん持った。欲求が満たされると絵が描けるようになる。それを繰り返した。誰かを好きにならないと昔みたいに描けないんだって、何となくは解ってた。でも誰にも好意が持てない。ゲイではないよ。自分勝手な好き勝手な恋愛してたから、バチが当たったのかなって思った。好きな人のことを思って描かない俺の絵は、価値はないんだ。でも、好きな人を想いながら、描く時間は至高の幸せだよ」

「──彼女はあなたに本気よ？　自分勝手に切っていい相手なの？」

　溜め息を、真波はついた。

「恵理子は息抜き。身体の関係だけ。あいつ、男いるよ。俺が本命って訳じゃない。ただのデッサンモデル。『ポーズ』をキャンバスに映す練習。恵理子をキャンバスに映したことは一度もないよ。本人にも最初から言ってある。『俺達は遊び。本気にならない』って」

　真波は続ける。本気にならない遊びなんてないのに。

「でも、美雨さんに会って、あんな風に帰して、この前、恵理子を描くのも、嫌悪感があって………彼女を描くのはやめた。恵理子にもはっきりそう伝えた。最低だって解ってる。我儘だって、独りよがりだって。でも俺、今、美雨さんを描きたい。思い出すだけで描ける。ずっとまともに描けなかったのに、毎日スケッチに描いてる。面影が消えないように、描いてるんだよ」

　熱のこもった真波の声が右耳から入ってくる。けれど私がそれに応えて、彼の絵に対する目的を了承したら、モデルになったら、いつか、私も彼を好きになる。彼のモデルになったたくさんの女性のように。

　そして、私が彼に情熱を傾けても、彼のその情熱は、いつか消えてしまう。彼の情熱は、この話だと多分一過性のもの。

　いつか飽きられて、この二周りも年下の子に本気になった私は、捨てられるんだろう。容赦なく、嫌悪感と否定を顕にされて。