氷雨と猫と君〖完結〗

華周夏

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〖第14話〗

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「そんなすごいことかなぁ。でも、褒められると照れるね。あんまり言われたこと無いから。俺、料理好きなんだ。美味しいものができていく過程を見るのが好き。絵を描くのも好きだよ。自分なりの綺麗なものができていくのが楽しい」

 私もそうだ。でも、ここで彼に同意はするけど、彼の隣に陣取るようにキッチンには立つようなことはしない。
 
 多分彼は望まないと思うからだ。だから余計なことはしない。私は偶々拾われただけだ。

 ただのみずぼらしいお客さん。恋人ではないし、料理が苦手な直樹と彼は違うのだ。だから彼の指先が織り成すショウのような調理風景を、ゲストとして私は余すことなく見届ける。

 彼は大柄な身体で、窮屈そうにキッチンに立ち、大きな手の粗野な指先でボウルに玉子を割り混ぜ、甘い匂いの粉を溶かしミルクをいれる。

 直樹は料理はからっきしだった。彼は私を見て話しながらも手は休まない。

 ローテーブルにホットプレートをセットを設置して彼は言った。

「土曜の昼は、ホットプレートでホットケーキって決めてるんだ。自分へのご褒美。アカシアの蜂蜜とバターなんか最高だよ。あ、このタネをあんまり混ぜちゃダメなんだ。膨らまない。軽くだまになるくらいがいい。前にYouTudeで見たんだ」

 ホットプレートに電気をいれると瞬時に機械も準備を始める電子音がする。
 
 暫くし彼はプレートにホットケーキのカスタードクリームのような色をした甘い匂いのタネをいれる。トロリとした素が膨らんで、返して、焼かれて、あっという間に出来上がる。

 笑顔が可愛らしい彼は、フライ返しが使い慣れている。食べる所作が綺麗だ。
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