氷雨と猫と君

華周夏

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〖第5話〗

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「美雨は俺と仕事とどっちが大事なんだよ」

 私は彼との急な約束より、仕事を残業を優先させる。これがご飯の元だから仕方ない。綺麗ごとだけ言ってはいられない。まあ、周りを見ればをみんな上手く他人に押し付けていくが、私には中々それができない。

「俺ん家で待ってる。小雨降ってるから後から気をつけて。部屋暖めとくから遅くならないようにな」

「ありがとう」

 仕事は楽だ。何も考えない。悩みもリセット。真っ白。全部なかったことにしてくれる。
 
 パソコンにひたすら文字打つ作業自体も好きだった。広東麺のカップ麺を食べながら残業した。直樹はもう忘れてる。あのメーカーの同じカップ麺を食べている自撮りの写メを送っても何の反応もなかった。

 私にとって大切でも、相手にとっては必要ないことなんて、よくある話だ。私が彼を好きになったきっかけも、あの時間がきっかけで二人の恋愛が始まったことも、直樹は多分知らない。あの残業の広東麺。

 けれど私の気持ちを強要するのは、エゴでしかない。でも、直樹と初めて楽しく話して、笑い合った時間を忘れられてしまうのは、少し悲しかった。

 ボタンを掛け違うような、小さな気持ちのすれ違い。当たり前が、当たり前ではなくなっていくこと。砂時計の、砂のようだった。気持ちが、こぼれ落ちていく。
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