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〖第4話〗
しおりを挟む別れ際、泥沼のようにはなりたくなかった。それに、その選択を選ばざるを得ないほど、彼の口ぶり、アルコールもないのに酔ったように揺れる瞳からは、今、その彼女が何よりも大事で、過去の恋人の私はどうでもいい存在なのだと思えた。
今の恋の熱に浮かされた彼にとっては、私と彼と過ごした五年の歳月なんて、何の未練も感慨も呼び起こさない時間となったようだった。
言葉にすると陳腐かもしれないけれど、私は彼を愛していた。彼も愛してくれていた──ただ、前と今の何が違うかと言うのは、彼が新しい恋に落ちた。それだけ。
彼の本能の向かう先が私ではなくて、誰かになって、理性もそれを認めた。それでも、決して無駄ではなかった。彼との時間は無駄ではなかったはずだと自分に言い聞かせた。
「帰るね。お会計」
私は一万円札を置く。今までの関係の精算と、彼と彼を恋に落とした彼女への、ただの上司からの御祝儀。
だけど形だけでも、心にもなくて良い。直樹から『ごめん』の一言が聞きたかった。
『最後なんだから、何かいってよ。ごめん、とか、すまないとか。何かしら一言言えるんじゃないの?』
こんな言葉を言いたかった。私は必要な時、今一つ自己主張ができない。どうして一番大切だったひとに、正直になれなかったんだろう。誠実に向き合おうとなんて、しなかった。自分の本心も見せられないのに何が結婚なんだろう。
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