氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
2 / 94

〖第2話〗

しおりを挟む

 雪が降る日はしんしんと底冷えがする。呼気の白さに雪の予感がして、マフラーを忘れたことを少しだけ後悔した。

 交通量が多い通りは空気が濁って灰色だ。曇り空は、イルミネーションの青色と白々した眩しい白色のLEDライトに照らされても、透き通ることはなく、不健康な光をぼんやりと小さな電球にまとわりつかせるだけだった。

────────────

 少しだけ遅れて店に着いた。彼はカウンターのいつもの席で黒ビールを先に注文していたが、口をつけていなかった。煙草の吸い殻だけ、時間の経過を物語っていた。

「時間、丁度よね?マスター、赤いの下さい」

 カンパリの水割り。甘く、淡く苦く、紅く澄んだお酒。

 私だけの裏メニューだ。乾杯をしてから、新しく立ち上がったプロジェクトについて話したり、

『最近、寒くなってきたからキムチ鍋したいね』

 と話したりした。

『シメはうどん?おじや?』

 明るく話そうとする私を尻目に、直樹は曖昧に頷くだけで何も言わなかった。

 私は、二杯目ののカンパリの水割りを飲みながら、お通しの残りのミックスナッツをつまむ。ミニポテトグラタンとお腹が空いていたのでホットサンドを注文した。

 それから、何に祝うでもなく、手持ち無沙汰にする直樹と、もう一度、意味もなくカンパリの水割りで乾杯する。マスターが作るカンパリの水割りは、自分で作るよりも、やはりずっと美味しく、照明に映える。

「暫く、忙しくしていてあんまりこういう機会無かったよね」

 私は直樹を見つめてぼんやりしてから煙草に火をつけたところで、彼は長い沈黙から口を開いた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

目が覚めたら

美咲 如
恋愛
熱を出した私を見舞いに来てくれた、ワンコ系後輩に食べられる話。 料理上手なワンコ系狼男子×私生活は喪女なキャリアウーマン。 ※ムーンライトにも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...