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〖第1話〗
しおりを挟む喧嘩なんかしたことなかった。でも、ただの仲良しではない。何処か、腹が立ってもお互いに飲み込んできた。
特に私は澱む雰囲気が嫌で口癖のように『なんかごめんね』と言っていた。喧嘩も納得なんかしてないのに、何故か私から謝っていた。我慢する作り笑いを見せてきた。
『さよなら、お幸せに』
そう私は彼との待ち合わせにいつも行っていた、昔馴染みのお洒落なカフェ・バーで彼に別れを告げた。
家に帰ろう、早く帰ろう。忘れてしまえばいい。いつもみたいに、寝て起きたら、元通り。出勤して仕事ををこなして定時にあがる。雨が降ってきた。天気予報の言う通り、この寒さなら本当に季節外れの雪になるかもしれない。
「氷雨………かあ」
私は雨は嫌いだ。冷たい雨はもっと嫌いだ。
──────────
全てのことの始まりは十一月初旬。直樹に久々に『会いたい』そして『話したいことがあるんだ』とLINEが入り、私は思わず空っぽの左手の薬指を見た。
少し前のデートを思い出したこと。二人で冷やかしのようにジュエリーコーナーを見た。
きらきら、輝いていた。
私は昼食後『了解』と『時間通り行けそう』とスマートフォンをタップした。
そう会社を出る前、彼に連絡をした。電話を切り、立ち止まり天気予報をチェックする。スマートフォンは『夜半から雪』と言っていた。
季節には随分早い寒波。まだ冬になりきれていないこの街で、今ごろ雪なんてかなり珍しいけれど、確かにその日はストッキング越しのヒールの足の甲から寒さが身体に染み込んでいく感じがした。
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