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〖第7話〗
しおりを挟む「そう、かもね。母さんにそう言われると嬉しいよ。母さん、おばあちゃんのお世話、分担しよう?あと、母さんの家事も手伝いたい。家事の分担はいい案だろ?今までがおかしかったんだ。母さんばっかりに面倒を押し付けて……まともな会話のない、家族だった。柚子は多分東京の大学行くと思うから練習にもいいだろ」
その日の夜、家族会議をして、家事を分担し、出来ることは自分の手が空いていたら手伝って、各々の仕事を減らそうと言うことになりました。
柚子はおばあちゃんのお粥づくり、洗濯物を込み、畳む。いつしか土日の洗濯当番になりました。
土日のご飯は祥太の仕事。趣味が料理の祥太は柚子から見て可愛げがないなと思えてしまいます。柚子はいつの間にか当たり前になった小さな家事を増やしていきました。
「出来ることは多い方がいい」
そう、祥太に言われたからです。
最近の朝御飯は、柚子がつくっています。悔しいと思いながらも祥太に料理を習っています。今日は簡単にベーコンエッグ、オニオンスープを作りました。そして、学生の両立のバランス。
毎日が充実しています。重いとは思いません。自分で歩く練習をしている。柚子はそう思っています。大学に入学したら、ほぼ一人暮らし。いい経験です。
***
温かいお茶のカップは空になり、気がつくと軍服姿の青年は見当たりません。今までまるで本当のような夢を見ていました。おばあちゃんはゆっくり歩き、車椅子に座りました。
「おばあちゃん?楽しかった?」
「幸せな時間をありがとう、柚子、祥太」
それから大切そうにバッグから写真を取り出しおばあちゃんは照れ臭そうに二人に見せてくれました。
「男前だろう?あのひと、軍医だったんだよ……」
あれ?これ、おじいちゃんだよ!柚子は驚きながらも祥太にひそひそ声で耳打ちしました。凛々しい見覚えのある青年。仏壇に飾られた遺影でしか見たことのなかった、おじいちゃんでした。
「逢う約束をした、次の日に、ね。あんなご時世だった。悔しいけどね。折り合いをつけて、人は年を取っていく。でも、若いうちから貧乏臭い真似はしちゃ駄目だよ。といっても博打うちになるんじゃない。芯の通った意見を持って、意思をもって。生ききるんだよ」
**《空中楼閣訪問から三年後》**
「おばあちゃんのお弁当の玉子焼き、おいしかったね」
「やっぱり、あの味!母さんのも、もちろん旨いけどさ。あとこの前のババロアも旨かったな。俺が作ったのと、なーんか味が違うんだよなあ」
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