喫茶店『空中楼閣』へようこそ〖完結〗

〖第４話〗

　柚子には祥太が車椅子を押す姿は、一人前の介護士さんに見えました。暫くすると鬱蒼と繁る森です。

「此処じゃねぇの？」

「あ、多分！うん、写真と同じ！」

「おばあちゃん、もう少しだから。楽しみにしていて」

　祥太は喫茶店『空中楼閣』の門をくぐり、初めて誰かの役にたてたと言うのと、おばあちゃんの認知症を見抜いていながら放置したまま、何も出来なかった後悔とやるせなさが、少し軽くなった気がしました。

　そして、今、おばあちゃんがあまりにも嬉しそうで、祥太は、思わず涙ぐみそうになりました。

　建物が見えます。モダンな洋館で、階段部分は祥太がおばあちゃんをお姫さまのように抱っこしました。華奢になり、昔と比べ軽くなってしまったおばあちゃんに、祥太は切なくなります。

「大丈夫？祥太？ありがとね。──祥太よく聞いてね」

「何？おばあちゃん」

「祥太は悪くないよ。ううん、誰も悪くなんかなかったの。だから、悲しまないでいいんだよ。お前は責任感が強いから、つらい思いをさせたね。ごめんね。もっと早く謝るべきだった。祥太を苦しめたね。悪いばあちゃんだ」

　祥太は軽く下を向いて懸命に首を振りました。泣きそうになるのを必死で堪えました。祥太には、そのおばあちゃんの言葉で充分でした。救われた、そんな感じがしました。

「柚子、店のドア開けて」 

　開けるとカラコロと、ドアベルの音がしました。昼なのにアンティークのような飾りがついたカーテンがひいてあり、中はまるで夜です。明かりを持った給仕さんでしょうか、マスターでしょうか。初老の男性が私達を案内します。

「ご予約の佐倉さま。お待ちのお客様がお見えです」

　おばあちゃんはスルリとまるで猫のように祥太に体重を感じさせず床に降りると、もう、何年も歩いてない足でおぼつかない様子もなく、ある青年を目指し、器用に歩いていきます。