偽りの聖女には貴方は渡さない!何故なら私が本物の聖女(らしい)からです!~って私、死んだんじゃなかったの?~

カシューナッツ

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みんな、笑いながら嘘をつくの?もう誰も信じられないよぅ〖第4話〗

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ドーナツをあげていく。幼い頃お母さんが作ってくれた遠い記憶。まるい穴の空いてないドーナツ。

生地から手作り。お母さんの味。
最後に食べられたのは『あの事故』のほんの少し前。

『マミ、ドーナツ食べる?ひさしぶりにつくたの』
『ダイエット中だから、今はいい』

あの時の自分がこれから起こることが解っていたら何10個も食べた。
高級車の未成年の飲酒無免許運転。
軽自動車の私以外の家族の命の灯火が一瞬にして消えた。

上級国民意識の高い加害者。
示談?冗談じゃない。法律は何のためにあるの?私は一生懸命民事でも動いた。でも、ダメだった。弁護士のユイにも、やんわり断られた。

謝罪のあと、あつらえたばかりの海外ブランドに身を包んだあいつはすれ違いざまボソッと私だけに聞こえるように言った。

『俺とあんたとは住む世界が違うの』


ああいう人間への怒り。私から大切な人を奪ったあいつみたいな。
権力を持たないものはこんなにも簡単に踏み潰されてしまうの?
権力は弱い人や毎日を誠実におくっている人達を守るためにあるんじゃないの?

就職は決まると曖昧な理由で駄目になり、そんなことを繰り返し、仕方なく今の会社に勤めた。



サーチェが、私を見て、

「マミさま、何かお怒りで?額に、か、雷の聖紋が!あ、このどーなつ?焦げています!鍋の中にも小さな雷がパチパチと!聖女さま……ご機嫌を損ねることが、ございましたか?」

恐る恐る尋ねる。
あんな雨なんか、偶然かもしれない。それでも、この子達は私が『天の聖女』だと信じている──。

「あ、昔のことを、少しね。おこげができたこのドーナツは私が食べるわ」

そんな、私が……と言いかけたサーチェに、私はいいのよ、と言った。ドーナツを揚げながら思った。

……皆の心を安らかになるよう天国に送るように祈ることが、先だったのに。私は悔しかった。
私には怒りしかなかった。
でも、もうここにあいつはいない。
あんな心根の貧しい奴は、ろくな死に方しないわ。
だからこの行きどころのないこの怒りは私が昇華しなきゃならないのよね……

「ルートちゃん、サーチェくん。あんまり私を特別扱いしないでいいからね。雨が降らせられるかもしれないネェちゃんって。それでいいんだよ。……偶然かも、しれないし。未だに自分が雨を降らせたって実感無いし。さっき、聴いてしまったの。もう、私は誰かを信じるのは何処か疲れてしまったの。自分を信じるのもね。信じても、裏切られる。正義はない。でも、正しいことは正しいと、間違いは間違いと、認められる世の中が来るといいね」


さあ、できたわよ!熱々だから気を付けて!

調理場の『本物』の獣人さんにも配る。ちょっとドキドキした。リクト王子たちと何か違うもの……。尻尾!失礼だけどむくむくで可愛い!


「俺たちが珍しいかい?聖女のお嬢さん」

ここのトップであろうハスキーのような精悍な料理長の獣人が笑う。

「俺たちは、暑がりなんだよ。今の季節にこんなもの食えねえ。調理場はあついしな。物好きな聖女さまだぜ」

私はおずおずと、

「檸檬水に少し塩と砂糖と氷を入れて一緒に飲んでみてください。さっぱりしますし、汗をかくときは糖分も塩分も必要なんです。それから、必ず疲労感や目眩がしたら、首、脇の下、手の平を冷やして下さい。必ず小休憩もなさって少しの甘いものと塩と、とにかく水分はまめに摂ってください」

「わかっちゃねぇなあ、聖女さま。氷を使っていいのは被り物の貴族さまと王族だけ。俺たち本物の獣人が使ったりもしたらムチ打ちで追放──」

私は怒りで声が大きくなる。

「──誰ですか!そんな馬鹿な法をつくったのは!一生懸命ご飯を作ってくれる人を区別した挙げ句、追放するなんて。ぶっ叩いてやる!」

私は怒りでわなわな震えた。
ただ、悔しくてたまらなかった。

「……国王ですよ。聖女さまが降りた真の聖なる泉が水脈に通じ首都に通じているんです。王子様は情報収集は大事にしておられます。梟鷹に命じ王宮を探らせています。ここまではいつも通りですよ。ですが最近、王宮の泉に聖女が降りたと。元々頭の悪い国王が、聖女かどうかも怪しい者が降りたと言い始めると、その聖女が何だか知らないアバズレのねーちゃんで素行が悪く、上級貴族は甘い汁を吸い贅沢三昧。挙げ句、聖女さまに言うのもなんですが、国王と共に男と女の淫らで湯水のように金を使う饗宴を毎日毎日。麻薬を栽培したり。全部皺寄せは国民です。増税、声を上げたものは強制労働。鉱山で命の危険と隣り合わせで上流貴族や、王族御用達の宝石を掘るんですよ。早くいなくなってもらいたいもんです。あと、氷は聖女さまには無理です、北の氷河まで体力のある獣人がキャラバンをつくって一年分の氷を取りに行くんですから」

腐ってる。トップが馬鹿なのは、それだけで罪よ。
国が腐るもとじゃない。
どの国でも歴史は繰り返すの?
そんな馬鹿野郎を諫めないなんて、一緒になって贅沢三昧なんて、そんなの聖女じゃないよ。
本当にここでは小説や漫画だけじゃないことが起ころうとしてる。

「私が氷を作るよ!取り敢えずここの氷室をいっぱいにすればいいよね。そうしたら皆で冷たいものが自由に使えるよ!」

やっちゃったよ……また悪い癖。でも、言い切った手前、失敗はできない。どうか、もし本当に私が聖女なら……願いを叶えて!みんな熱中症になっちゃうよ!大変な思いをしている人がいるんだよ!

「サーチェ、氷をつくりたいの。作り方を教えて!」

「『冷ややかな怒り、慈愛、に手を組み祈れ』と古代書には。それしか書かれておりません。怒りに慈愛とは?私には……解りません。申し訳ございません……マミ、聖女さま……」
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