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〖第11話〗
しおりを挟む小学校の夏、父に無理を言って福島の叔父さんの家についてきた。綺麗な場所だった。光も、緑色の風も、全てが輝いて見えた。父と何か話がしたかった。けれど、父にとっての僕は、まるで空気のような存在だった。
そんなものだ。僕はいつの間にか、大人に期待をしなくなった。可愛げがない子供。可愛がりたくなくなる子供。
太陽が頭上からジリジリと僕を照らす。標高が高いせいか肌はチリチリする。
目の前で蝉がひっくり返っていた。ただ、見ていた。僕は段々意地悪な気持ちになって、力尽きてジジッジジッと翅を震わせる仰向けになっている蝉を踏み潰そうとした。
けれど、チヨさんに両肩を後ろからそっと捉まれた。
血が引いた。人を殺そうとしたところを見られたらこんな感じがするのかもしれないと思った。
数秒の間に、暑さに放っておかれて、力尽きて死んでしまった蝉が可哀想で、罪悪感、自分にあった残酷な気持ちへの恐怖感、たくさんの感情が込み上げて僕は泣いた。
「苛々してただけなんだ。殺したくなんかなかったんだ。ごめんなさい。ごめんなさい」
「大丈夫。惣介ちゃん。チヨは魔法使いなんですよ」
動かなくなった蝉の亡骸を、チヨさんは右手に持って空に投げた。蝉は真夏の空を飛んでいった。
「惣介ちゃんは秘密を守れますね?」
穏やかに笑うチヨさんに、幼い僕は頷いた。何度も、何度も。
◇◆つづく◆◇
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