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【第43話】レガートの不安
しおりを挟むレガート、顔つきが柔らかくなったな。私も、笑えるようになった……フィルに感謝だな……。
王様は、フィルの手を取り、そっと手の甲に口づけ、
『フィル、礼を言う。これからの儀式、宜しく頼む』
柔らかな綺麗な笑顔で王様は言った。
優しげな表情。
フィルは、レガートと閨をともにした後、
レガートが優しく目を細めて髪を撫でる顔にあまりにもそっくりだと思った。
そんなことを考えたら顔が熱くなった。多分真っ赤だ。頭の中で、昨日の夜をこんなところで思い出すなんて、みっともないし、恥ずかしい。
それでも、耳元で『フィル』と優しく湿度のある声で囁くレガートの姿が、絡まる長い黒髪の感触までも、思い出してしまう。
「は、はい、王様」
『兄上、気安く私の花嫁に触らないで下さい』
『ふふふ、悋気か。お前が心から愛する相手ができて、良かった。では二人とも宜しく頼む。下がって良いぞ。あまり『体力』を使いすぎぬようにな』
頭を下げて、フィルとレガートは謁見の間を後にする。王様はクスクスと笑っていた。
「レガート、何怒ってるの?」
謁見の間を出て、レガートは早足で歩く。フィルは追いかけるのがやっとだ。
部屋に着き、フィルは大声で問い詰めるように言った。
「レガート! 何が気に入らないの?」
『お前も……本当は……兄上がいいのか?』
そうポツリとレガートは言うと、礼服のマントをバサリとベッドに放り投げた。マントちゃんはヒラリとフィルに泣きつくように抱きついた。可愛い。
「何で? 何でそんな話になるの? 好きだって、愛してるって何回も言ったよ?何で私を信頼してくれないの? 疑うの? 王様は優しくていい人だと思うけど『好き』とは違うよ!レガートは私がレガートのお嫁さんになるのが気に入らないの?」
『じゃあ何故……いや、何でもない。詮無きことだ』
「はっきり言ってよ! 何でそうなるのか解らないよ! ……レガートの、ばか!もう知らない! 勝手に独りでそう思ってれば!私、もう寝るっ!」
窮屈な礼服を脱いでレガートにぶつけるように投げ、フィルは普段着に着替える。
レガートは沈痛な面持ちで、テーブルに、曲げた肘に顔をのせずっとフィルを見ていた。まるで捨てられた仔犬のようだった。
椅子に腰かけ、悲しそうにずっとフィルを見つめる視線が、瞳が、あまりにも切ない。
身軽な服装に着替えたフィルはテーブルの向かいに腰掛けレガートの手を取り、手の甲に口づけた。
「私の何が不満なの?」
レガートはうなだれる。
『……不満なんか、ない。無いんだ。ただ、兄上が、フィルの手の甲に口づけたあと、お前は真っ赤になった。フィルは、兄上が……本当は兄上が、好きなんじゃないか? 不安なんだ。お前の美しさは誰をも惹き付ける。美しい鳥が偶然に私の所へ来て囀ずっているだけで、本当は兄上の所へ行きたいのではないかと……。閨も……私はただの閨の修練の相手だったら、愛してるも、好きも、作り物だったら……怖い、そんなことは思いたくもないのに不安だけが育っていくんだ何が嘘で、何が本当かも解らない。愛しているんだ。フィル………。本当に………愛して、いるんだ……」
だから、怖い。怖いんだ。幸せが、喜びが、怖いんだ……。
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