妖精の園

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
51 / 103

【第43話】レガートの不安

しおりを挟む

レガート、顔つきが柔らかくなったな。私も、笑えるようになった……フィルに感謝だな……。
  
王様は、フィルの手を取り、そっと手の甲に口づけ、

『フィル、礼を言う。これからの儀式、宜しく頼む』

柔らかな綺麗な笑顔で王様は言った。
優しげな表情。

フィルは、レガートと閨をともにした後、
レガートが優しく目を細めて髪を撫でる顔にあまりにもそっくりだと思った。
 
そんなことを考えたら顔が熱くなった。多分真っ赤だ。頭の中で、昨日の夜をこんなところで思い出すなんて、みっともないし、恥ずかしい。

それでも、耳元で『フィル』と優しく湿度のある声で囁くレガートの姿が、絡まる長い黒髪の感触までも、思い出してしまう。 

「は、はい、王様」

『兄上、気安く私の花嫁に触らないで下さい』 
『ふふふ、悋気か。お前が心から愛する相手ができて、良かった。では二人とも宜しく頼む。下がって良いぞ。あまり『体力』を使いすぎぬようにな』 

頭を下げて、フィルとレガートは謁見の間を後にする。王様はクスクスと笑っていた。 

「レガート、何怒ってるの?」

謁見の間を出て、レガートは早足で歩く。フィルは追いかけるのがやっとだ。

部屋に着き、フィルは大声で問い詰めるように言った。 

「レガート! 何が気に入らないの?」 

『お前も……本当は……兄上がいいのか?』

そうポツリとレガートは言うと、礼服のマントをバサリとベッドに放り投げた。マントちゃんはヒラリとフィルに泣きつくように抱きついた。可愛い。

「何で? 何でそんな話になるの? 好きだって、愛してるって何回も言ったよ?何で私を信頼してくれないの? 疑うの? 王様は優しくていい人だと思うけど『好き』とは違うよ!レガートは私がレガートのお嫁さんになるのが気に入らないの?」 

『じゃあ何故……いや、何でもない。詮無きことだ』

 「はっきり言ってよ! 何でそうなるのか解らないよ! ……レガートの、ばか!もう知らない! 勝手に独りでそう思ってれば!私、もう寝るっ!」 

窮屈な礼服を脱いでレガートにぶつけるように投げ、フィルは普段着に着替える。
 
レガートは沈痛な面持ちで、テーブルに、曲げた肘に顔をのせずっとフィルを見ていた。まるで捨てられた仔犬のようだった。

椅子に腰かけ、悲しそうにずっとフィルを見つめる視線が、瞳が、あまりにも切ない。

身軽な服装に着替えたフィルはテーブルの向かいに腰掛けレガートの手を取り、手の甲に口づけた。

「私の何が不満なの?」 

レガートはうなだれる。 

『……不満なんか、ない。無いんだ。ただ、兄上が、フィルの手の甲に口づけたあと、お前は真っ赤になった。フィルは、兄上が……本当は兄上が、好きなんじゃないか? 不安なんだ。お前の美しさは誰をも惹き付ける。美しい鳥が偶然に私の所へ来て囀ずっているだけで、本当は兄上の所へ行きたいのではないかと……。閨も……私はただの閨の修練の相手だったら、愛してるも、好きも、作り物だったら……怖い、そんなことは思いたくもないのに不安だけが育っていくんだ何が嘘で、何が本当かも解らない。愛しているんだ。フィル………。本当に………愛して、いるんだ……」

だから、怖い。怖いんだ。幸せが、喜びが、怖いんだ……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...