妖精の園

カシューナッツ

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【第37+α話】フィルの目覚め(3)**

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 ──お互いがお互いを求めるという行為が、こんなに心地よくて、フィルは出したことのないような声を出させるとは知らなかった。

身体を繋げるのは知識だけで怖かった。けれど耳元で名前を呼ばれるだけでフィルの身体は弛緩して、レガートのいいなりになってしまう。

段々と加速度をつけるレガートの身体に比例してフィルは快感を得て思いもしない声を出す。
波のように込み上げる快楽に飲まれ、レガートの名前を呼んでフィルは泣きながら達した。

 充実感、多幸感に浸る。レガートの胸に顔を埋めると、安心する。
ずっとこのままでいたいと思う。 

「初めてが、レガートで良かった。幸せだよ。花嫁になっても、レガートが好きだよ。私の心は、ずっとレガートだけ……愛してる。ずっとずっと、愛してるよ。だから忘れないで。翡翠の指輪に誓うよ」

 フィルはレガートの手を取り口づける。綺麗で繊細な手だと思った。抱き合った後、腕を絡めて眠るのがレガートの癖のようだった。

まるで離れないように。目覚めると横にレガートの顔がある。普段見ることは決してないだろう穏やかな寝顔。頬に触れると、手首を捕まれ、指先にそっと口づけされる。 

「お、起きてたの?」 

『ああ』 

レガートはフィルの髪を撫でる。
紫の爪が綺麗だ。

そして、目を細めて暖かい眼差しで見つめられ、シーツから覗く程よく厚みのある胸に長い黒髪を絡ませたレガートは色っぽくて、フィルは何処を向いたらいいか解らない。 

『起きたらお前が消えていたらと……怖くなった。それにお前の寝姿は可愛らしい。あどけない顔をして、腕にしがみつかれ、名前を呼ばれ「好き」と。……とても眠れたものではない』

 腰布を巻いたレガートが『少し冷えるな』とフィルの額に口づけて、人差し指で魔法陣を書いて火の受け皿に小さな炎をおこした。

火の明かりに紫の羽根が磨り硝子のように光を受ける。 

「レガートの背中の羽根、本当に綺麗……私の一番好きな色」 

フィルはシーツを肩までひっぱる。レガートの立ち姿はとても綺麗だった。無駄のない筋肉。すらりと伸びた背筋。白い肌に絡まる長く真っ直ぐな黒髪。 

「……あの、私にも、布ちょうだい。裸なの、ちょっと、恥ずかしい」 

『は、裸。そうだな、そうだ。ぬ、布だな。待っていろ』 

レガートは綺麗な彫刻が施してある箪笥から、紫の腰布を恥ずかしそうに手渡した。フィルは手早く布を巻き、椅子に腰かける。

少し腰が痛い。
行為のせいだとは解っている。
だからか余計に恥ずかしい。

夜、ベッドであんなに艶やかにフィルを酔わした人とは考えられないくらい、レガートは、照れ臭そうにしている。

フィルはテーブルの椅子に掛け、籠に置いてあるタカタカの実を食べる。みずみずしくて少しホッとする。
レガートはドーナツを黙々と食べている。フィルと目が合うと微笑んで

『懐かしい味だ』と、
『とても美味しい』とも。

軽食後レガートは頬を赤らめ、 

『昨夜は……加減を……したつもりだったが、身体はつらくないか?フィル』

 と訊いた。
 
「だ、大丈夫」 

そう、フィルは言ったが、口とは裏腹にフィルの身体は、欲は、もっとレガートを欲しがった。

身体が溶けてレガートと一つになるような、怖いくらいの快感をずっと、味わっていたかった。

でも、そんな、初めてなのに、はしたないとフィルは思ってしまう。
初めては、苦しくて痛いと知識としてあったのに。

フィルはレガートを身体に受け入れ、指を絡め、口づけをされ、ただ心地よく、ただ快感というものを知っただけだった。
私は好色なのかなあ……。

心のなかで呟くように思い、
それより先にレガートが呆れていたらどうしようと思ってしまう。

肩を落とすフィルに、レガートはテーブルの上に置かれた小さなフィルの手に、そっと手を重ねた。

 「……私、変かな?昨日思わなかった?……は、初めてなのに…はしたないって。好色なんじゃないかって。だって…あんな……」

 レガートはきょとんとした顔をしたあと、愉快そうに笑う。 

『怯えた可愛らしい仔猫のようだった。最初、身体をこわばらせて。震えていた。だから、何回も口づけ、愛していると、怖くないと言った』

 朧気な記憶。白い指で髪を撫で微笑み、額に、頬に口づけ、

『怖くない。愛してる』

とレガートは言った。その後は陶酔。フィルにはあの時、レガートしか考えられなかった。感じられなかった。

幸せだと、思った。

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