妖精の園

カシューナッツ

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【第37+α話】フィルの目覚め(2)

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ずっと灯り続けていた二人の金色の灯りが揺れる。熱く、甘い気持ちだけが溶け出す。そっとレガートはフィルに深く口づけた。フィルはやさしくて心地よくて溶けてしまいそうだと思った。

口唇を離し、フィルが、照れ臭そうに足元に視線を移すと床のベッドの足元の敷き絨毯に赤い染みができているのを見つける。良く見ると大理石の床にも朱いインクを落としたような跡があった。

 「………朱い、血?レガート、怪我してるの?」 

『あ、ああ。訓練でな』

 「嘘つかないで。話して。お願い」

レガートは俯きながら、ことの詳細を簡単に話した。

フィルは生命の珠を魔女に盗られ、交換条件でフィルの髪と、手の爪を失ったこと。 

『手の爪なら生えてくる。気にするな。昔この色が嫌で、自ら剥がしたこともあるくらいだ』

 フィルの髪を血がつかないよう気をつけて撫でながらレガートはやさしい顔をする。けれど痛みなんて尋常じゃないはずだとフィルは泣きたくなる。

 「気にしないわけないよ……! ごめんなさい、ごめんレガート。痛かったはずだよ。今も痛いよね。私、何も出来ない。役立たずでごめんなさい。早く……早く手当てをしないと……ごめんなさい私のせいでこんな……」

 フィルの大きな瞳から涙が落ちた。握りしめた手の翡翠の指輪に涙が落ちたとき、指輪は鈍く輝いた。

不思議に思ったフィルが指輪は軽くかざすと雪のよう光をこぼす。

小さな白い光の粒子がきらきら染みでる爪の血を再生させていく。
辺りの床は光の白砂の絨毯のようだ。

レガートの爪は綺麗な紫水晶のように変わっていた。腕の傷はきれいに治っていく。

『傷が治っ……た?しかも、爪の色が変わっている……?』 

「痛くない?本当に治ったの?」

布を借りていいか?と言いうのでフィルはレガートにベッドサイドに置かれたフィルの額を冷やす予備の布を手渡した。指の血を拭う。

傷はなく、綺麗な爪が現れる。

 「良かった。怪我、治ったんだ。この指輪……レガートにあげる。ちょっと待ってて」

 するり、と外れた指輪をレガートの指にはめる。 

「レガートを、守ってくれるよ。どんなことからでも、守ってくれるよ」

 『この指輪は王様からアルト様への婚約指輪だ、こんな大切なもの、受け取れない』 

「お願い、レガート。私がいつも傍にいると思って。私からの想いのしるし、受け取って」 

『……わかった。大切にする』

 フィルは思わず立ち上がりレガートに抱きついた。

バランスを崩したレガートごと、フィルはじゃれつくようにベッドへ倒れ混む。 

「一緒に寝よう?あの日みたいに。今度はレガートが私を抱きしめて」

見つめ合い、啄むように口づけあう。何度も飽きることを知らないくらい、じゃれあう。ふとした熱を帯びたレガートとの視線の交差。

 『……お前が欲しい、フィル。お前がいとしい。もう嘘はつかない……可愛いフィル……私のものになって欲しい……』

指先で髪を梳くレガートはフィルを見つめ目を細めた。レガートから、甘い、いい匂いがする。

蝶は美しい花に誘われ、理性が溶けていく。そしてレガートの深い口づけを受け入れる。 

『ずっと触れたかった。口づけして、頬に、身体に……触れたかった、私の金色の乙女』

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