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【第22+α話】《眠る》二人
しおりを挟むレガートはフィルの髪を一束持ち、口づけた。
《私の花嫁に、なって欲しかったな。お前が、欲しかった。お前は偽りがない。美しい金の髪に林檎のような口唇。愛らしい顔立ちだ。お前は私が翁に扮していたときも何も変わらなかった。それに私がずっと欲しかった言葉を、まるで見てきたようにくれる。お前がいとしい。この気持ちを伝えたら、お前も嫌悪するのだろうか。私を好きになってくれとは言わない。ただ、嫌わないでくれ…けれど、もう諦めなければな。私もお前もつらくなるだけだ…もう、今のままではいられない》
レガートは潤んだ声でそう言い、そっとフィルを抱き寄せた。
『……レガートは私の初恋なの。ずっとレガートが好きだよ』
という、儚いフィルの告白にレガートは胸を痛めた。
想いが通じても、許されない。
この手で自分の想いもフィルの想いも握り潰すのか。
レガートは初めて運命を憎んだ。
叶わないものがある、望んでも得られないものがある。そんなことはとうに解ってきたはずなのに。あの娘を失い、痛いほどレガートは自分は醜いと思い知った。
だから余計にレガートは背筋を伸ばした。 けれど、フィルだけはそのままのレガートを「高貴で美しい」と言った。
今、フィルはレガートを親鳥が雛を守るようにレガートを胸に抱く。
泣きながら眠るフィルがいとしい。
そしてあまりにも憐れだ。
【外から来たものは王様のもの】
王様が目覚めた今、掟は絶対。そして王様が『花婿』を指名した今、今夜で全てが終わりだ。
『フィル』
……そう名前を呼ぶだけでレガート苦しくなる。もう、フィルを想ってはいけない。『さよなら』の意味も込めてレガートはフィルに口づけた。
『眠る』フィルは涙が溢れてとまらなかった。
朝、目覚めるとレガートが、お茶を飲みながら椅子に腰掛け空を見ている。
心なしか面持ちが暗い。
そんな最中フィルは伸びをして目を擦りながらレガートに『おはよう』と言った。昨日に比べずっと強い日差しがレガートの白い肌を照らす。
フィルは目が覚めても最初寝たふりをしてレガートを見つめていた。
綺麗なひとだと思う。けれどフィルを見つめるレガートの瞳にはいつものような光がない。
フィルは昨日、『眠った』時にレガートから聞いた言葉が、耳から離れない。
呟くような言葉が胸を締めつける。
忘れられない。忘れたくない。あの時、素直に想いだけでも伝えるべきだったんだろうか。
通じあえたと思える瞬間は確かにあった。
『お前がいとしい』
とあの時レガートは確かに言った。嬉しいと同時に涙がとまらなかった。
修練が終わっても、花嫁になっても胸の中の金色の灯りは消えないとフィルは思う。
けれど、レガートはフィルが起きていたことを知らない。
レガートの臆病な告白を聞いていて、触れるだけの口づけを交わしたこともフィルは知らないと思っている。
フィルは『いつか』伝えようと思った。不確かな『いつか』レガートに恋をしていた。それは、レガートも同じだった。想いが過去に変わる前に伝えたい。
いつか。
そう、いつか。
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