妖精の園

カシューナッツ

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【第13+α話】きれいになりたくて

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綺麗な妖精さん。私もあんな綺麗なひとに、なりたかった。レガートの、恋人になりたかった。心の中でフィルは小さくそう呟いた。

お夕飯を作る気分になれず、フィルはベッドに横になっていた。

『フィル、どうした?』

「調子が悪くて。今日は私、ご飯いらない」

『スープだけでも。何か………この前フィルと一緒に作ったスタメナのスープなら、あれなら………』

「要らない!レガートの作ったものなんて!香水とお白粉の匂いがして、到底食べられない!」

『フィル………』

「レガートは独りなんかじゃないじゃない!恋人がいるくせに。あんな綺麗なひとがいてなにが不満なの?レガートなんか知らない!もう、もう………私はどうすればいいの?……レガートの………レガートのバカ!もう知らない!………嫌い!…………レガートなんて大っ嫌い!」
    
あなたが好きな気持ちを何処に持っていけばいいの?

この気持ちをどこに捨てれば良いの?

フィルはそう思いレガートを見つめた。

「ちょっと出てくる!」

『外は雷雨だ!フィル!行くな!』

変装用のいつもの帽子を被り、ドラゴン厩舎に行った。たまたまリトが、お産を控えたドラゴンを世話する当番だった。

「リト、リト、助けて」

私は全てのことをリトに洗いざらい話した。

『………多分、だけど、フィルの話からすると、その妖精は高級娼婦だね。隊長は決まった恋人は持たないから。安心していいよ。フィルは隊長に恋をしたか。いつも寂しい思いをしてきた人だ。優しくしてやってくれ。お、言ってるそばから隊長が探しに来たぞ』

「やだ!会いたくない!娼婦なんか部屋に呼んだりして………」

『やらしいか? 』

フィルは首を横に振る。やらしいとは思わない。否定もしない。成人男性の正当な欲求だからだ。


『フィル………?どうした?』


どれだけ自分が惨めだったか。バスルームの鏡に映る、少年なのか少女なのか、見分けがつかないような中途半端な未発達な身体。月の物も妖精の国に来てから途絶えたままだ。

『フィル………?どうした?』

「リト………助けて、胸がちぎれそうだよ」

『あー、隊長と直談判した方がいい。人を介せば言葉は歪む。大きな声では言えないけど、隊長、厩舎の天幕に隠れてめっちゃ見てる。フィル、ちょっと熱あるな。おいおい高いぞ?風邪引いたか?酷いな。薬より……まあ俺疲れるけど帰って寝るだけだしな。『妖精の気』を分けた方が手っ取り早いな。手、貸して』
    
握られた手から暖かな陽射しのような物が身体に充満する。苦しさはなくなり、身体は楽になった。

「ありがと。疲れた顔してる。ごめんね」

『後は二人で。隠れてないで!ちゃんとフィルに全部素直に話さないと嫌われますよ、隊長!』

天幕に二人残し、リトは、

『雨は濡れるから嫌だなあ』

とぼやくように言い、

『損な役割だな』

そうため息を残し大きな羽で羽ばたいていった。




『この雨では濡れて、寒いだろう。おいで』

「う、うん」

マントが意思を持ったように優しくフワリとフィルを包む。

『マントちゃん?可愛いね。フィルだよ。宜しくね』

マントちゃんは嬉しそうにフィルをぎゅっと包む。レガート曰く、王家の魔法具らしい。座って火にあたり、

「今日は申し訳ありませんでした。私は従者なのに、思い上がって、生意気を言いました。以後気をつけます」

頭を下げるフィルの両肩をレガートは掴み揺さぶった。

『そんな言葉遣いをするな。傍に居てくれ。フィルが傍にいてくれると幸せな気分になれる。いつも通りのフィルがいい』

「レガートは、残酷だね………」

フィルは手を握りしめる。泣いてしまいそうだった。マントちゃんが、フィルの目尻を撫でた。


    
フィルはドラゴンの出産にも立ち会った。深夜、レガートとリトと三人、気が立っている陣痛をむかえたドラゴンにフィルは『癒しの唄』を歌ってあげたらドラゴンの呼吸は穏やかになり、無事小さなタマゴが三つ生まれ、すぐに可愛いお母さんにそっくりなドラゴンが三匹殻を破って生まれた。

「可愛いね。一人前に小さな火を吐いてる。こらこら、帽子が焦げちゃうから駄目だよ。お母さんドラコンさんは休んでいてください。赤ちゃんドラゴンは、少しの間あやしていますから」

フィルが一匹を膝に乗せると、他の二匹も先を争うように膝に乗りたがり、クウクウと甘える声を出す。

『チビ達、皆フィルの膝に乗りたがってる。母親もフィルにべったりだ。甘えるドラゴンなんて生まれて俺、初めて見たよ』

フィルは膝の上に競って乗りたがる小さなドラゴンを撫でながら、レガートに、

「そうなの?」
 
と訊いた。レガートは、

『ドラゴンは誇り高い動物だ。こんなに甘え、懐くのは、正直私も驚いている』

《みんな、大きくなったら私をのせて?》

そうフィルがいうと三匹はフィルに身をすり寄せ小さなマッチくらいの火を吐く。どうやら嬉しいみたいだ。

『隊長、羨ましいでしょ』

リトは、にやにやしながらレガートに言う。

『……うるさい』

『隊長……隊長は昔から大人にまみれて汚いものを見すぎたでしょう。フィルの純粋さに隊長が惹かれるのは解ります。でも、潮時です。これ以上は隊長もフィルもつらくなるだけです』

『解っている』

『掟を破って無事でいられたものはいません。王位継承資格剥奪だけじゃすまない。その時フィルを守れるんですか?フィルはいつも俺に隊長のことばかり尋ねます。傷が浅くてすむうちに、王様が目覚めた後のこと【掟】のことを教えないと』

『……解っている』

『解ってないから言うんです。フィルは親切をあなたに返したいんじゃない、あなたが好きなんですよ?隊長』

『それはない。フィルは私が珍しいだけだ……』
 
    
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