29 / 103
【第24話】花嫁とレガートのこころの中
しおりを挟むやさしい手。
額に二度口づけをされる。おばあちゃんもよくしてくれた。
『今日も一日いいことがありますように』
と言うおまじないだそうだ。
「親衛隊の副隊長に指示を出すと。それと、王様にこれを返そうと、あれ?」
翡翠の指輪が抜けない。
王様がおばあちゃんに下さった翡翠の指輪。
無理に引っ張りすぎ指が痛く、指の色が変わっている。
王様はやわらかくフィルを諭すように言った。
『その指輪は主人を選ぶ。古くから王家に伝わる、守り、癒す指輪だ。その指輪が主人にしたい、守りたい相手を見つけた時、指輪が初めて本当の力を発揮すると言われている。大事にしてくれ』
王様は苦笑した。
「すみません。王様は親切で、やさしくて、とても好きです。王様と一緒にいる時間は楽しいです」
『ではフィル、私の花嫁になるのは嬉しいか?』
フィルは俯いた。
『想う人がいるのか?』
頭に浮かんだのは胸に顔を埋めるレガート。夜着越しに肌に触れる吐息の湿度や昨日の眠るフィルにかけられた言葉と触れるだけの重ねられた口唇の温度や感触を思いだし、顔が音を立てるよう紅くなる。
王様は笑い、
『正直だな。フィルは。相手はレガートだろう?何処に惹かれた?』
フィルは昨日のことを思い出す。
「理由は悲しい瞳でしょうか。年上の方に失礼ですが、守ってあげたいんです。これ以上傷つくことがないように。羽根も、髪も、爪も、レガートのせいではないのに。生まれついたもので疎まれたなんてあんまりです」
王様は、優しい目差しでフィルの言葉を促す。
「私もこの金の髪のせいで石を投げられたり、蔑まれたりしました。けれどレガートは『美しい』と言ってくれました。私は……嬉しかった。本当に、嬉しかったんです……昨日……私は羽根や髪や爪の色を私の感じたままをレガートに言いました。レガートは抱きしめてくれました。でも、朝起きたら知らない人のようでした。微笑みの似合うレガートはもう居ませんでした」
成程な……。そう言い王様は黙った。
『フィル。お前がレガートに惹かれているのは解っていた。気を落とすな。重要なのは、これからだ。どうしたらあのへそまがりがこの『花嫁』に向けた修行の期間の間で素直になれるかだ。養育係と言った手前、レガートのことだ、『完璧な』養育係になるよう努めるだろう。私情は挟まず、お前を冷たく扱うのも、全てレガートの『掟を守るため』と心を殺す、拙い努力よ。お前にはつらいだろうが……』
「はい……」
『レガートはお前に惚れている。すぐ解った。お前をどうしても後宮に入れたくなかったみたいだったみたいだな。レガートは『使用人』の選択をしようとしたらしいが盲点がある。大臣に論功行賞で指名されたらお前はその大臣の慰み者だ。私は苦肉の策で『花嫁』の位を考えた。花嫁の位には、二ヶ月の修練期間がつく。それに正二位はそう簡単に論功行賞の下賜にはならないし即後宮とはならない。あとは………また今度にしよう。それにしても寝ているふりをするお前に口づけまでするとは。あいつも心の奥では相当熱をあげているな』
「く、口、づけ?」
どうして?フィルはその一言しかなかった。
『すまない、心が見えてしまった。読もうと思ったわけではないのだよ。すまない』
王様は笑う。
小さなタカタカの実をフィルは取り敢えず口に運ぶ。甘くてみずみずしい。さっぱりして喉を潤す感じがする。
タカタカの実を食べながら、そういえば昨夜、レガートが『兄上は相手の心を読み取る力がある』と言っていたことをフィルを思い出した。
『フィル、たくさんお食べ。レガートは遊ぶときは実入りのいい女性を好む。レガートも閨の手ほどきのとき、その方があいつは嬉しいだろう』
「ね、閨!」
『聞いてなかったか』
毒味だ。身体に毒を仕込んでくる輩もいる。否が応でもレガートと夜を共にしてもらうぞ。掟だからな。と王様は言った。
レガートは好きだけど、夜を共にするなんて。王様は『あと二ヶ月だな』とクスクスと笑いながら言った。
一日おいて次の日から厳しい修練が続いた。所作、教養、魔術、芸術、学業、武術……あげたらきりがない。最初はずっとレガートといられると、フィルは楽しみにしていた。
けれど、今は苦痛でしかない。
レガートに失望されたくない。
その思いだけで懸命に取り組むけれど、レガートは必要最低限の話しかしない。
目も合わせてくれない。
微笑んで、くれない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる