妖精の園

カシューナッツ

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【第24話】花嫁とレガートのこころの中

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やさしい手。
額に二度口づけをされる。おばあちゃんもよくしてくれた。

『今日も一日いいことがありますように』

と言うおまじないだそうだ。 

「親衛隊の副隊長に指示を出すと。それと、王様にこれを返そうと、あれ?」

翡翠の指輪が抜けない。
王様がおばあちゃんに下さった翡翠の指輪。
無理に引っ張りすぎ指が痛く、指の色が変わっている。
王様はやわらかくフィルを諭すように言った。 

『その指輪は主人を選ぶ。古くから王家に伝わる、守り、癒す指輪だ。その指輪が主人にしたい、守りたい相手を見つけた時、指輪が初めて本当の力を発揮すると言われている。大事にしてくれ』

 王様は苦笑した。

「すみません。王様は親切で、やさしくて、とても好きです。王様と一緒にいる時間は楽しいです」

 『ではフィル、私の花嫁になるのは嬉しいか?』 

フィルは俯いた。

 『想う人がいるのか?』

頭に浮かんだのは胸に顔を埋めるレガート。夜着越しに肌に触れる吐息の湿度や昨日の眠るフィルにかけられた言葉と触れるだけの重ねられた口唇の温度や感触を思いだし、顔が音を立てるよう紅くなる。
王様は笑い、 

『正直だな。フィルは。相手はレガートだろう?何処に惹かれた?』

フィルは昨日のことを思い出す。

「理由は悲しい瞳でしょうか。年上の方に失礼ですが、守ってあげたいんです。これ以上傷つくことがないように。羽根も、髪も、爪も、レガートのせいではないのに。生まれついたもので疎まれたなんてあんまりです」

王様は、優しい目差しでフィルの言葉を促す。

「私もこの金の髪のせいで石を投げられたり、蔑まれたりしました。けれどレガートは『美しい』と言ってくれました。私は……嬉しかった。本当に、嬉しかったんです……昨日……私は羽根や髪や爪の色を私の感じたままをレガートに言いました。レガートは抱きしめてくれました。でも、朝起きたら知らない人のようでした。微笑みの似合うレガートはもう居ませんでした」 

成程な……。そう言い王様は黙った。 

『フィル。お前がレガートに惹かれているのは解っていた。気を落とすな。重要なのは、これからだ。どうしたらあのへそまがりがこの『花嫁』に向けた修行の期間の間で素直になれるかだ。養育係と言った手前、レガートのことだ、『完璧な』養育係になるよう努めるだろう。私情は挟まず、お前を冷たく扱うのも、全てレガートの『掟を守るため』と心を殺す、拙い努力よ。お前にはつらいだろうが……』 

「はい……」 

『レガートはお前に惚れている。すぐ解った。お前をどうしても後宮に入れたくなかったみたいだったみたいだな。レガートは『使用人』の選択をしようとしたらしいが盲点がある。大臣に論功行賞で指名されたらお前はその大臣の慰み者だ。私は苦肉の策で『花嫁』の位を考えた。花嫁の位には、二ヶ月の修練期間がつく。それに正二位はそう簡単に論功行賞の下賜にはならないし即後宮とはならない。あとは………また今度にしよう。それにしても寝ているふりをするお前に口づけまでするとは。あいつも心の奥では相当熱をあげているな』 
「く、口、づけ?」

 どうして?フィルはその一言しかなかった。

『すまない、心が見えてしまった。読もうと思ったわけではないのだよ。すまない』

王様は笑う。
小さなタカタカの実をフィルは取り敢えず口に運ぶ。甘くてみずみずしい。さっぱりして喉を潤す感じがする。

タカタカの実を食べながら、そういえば昨夜、レガートが『兄上は相手の心を読み取る力がある』と言っていたことをフィルを思い出した。

『フィル、たくさんお食べ。レガートは遊ぶときは実入りのいい女性を好む。レガートも閨の手ほどきのとき、その方があいつは嬉しいだろう』 

「ね、閨!」
 
『聞いてなかったか』

毒味だ。身体に毒を仕込んでくる輩もいる。否が応でもレガートと夜を共にしてもらうぞ。掟だからな。と王様は言った。 

レガートは好きだけど、夜を共にするなんて。王様は『あと二ヶ月だな』とクスクスと笑いながら言った。 




一日おいて次の日から厳しい修練が続いた。所作、教養、魔術、芸術、学業、武術……あげたらきりがない。最初はずっとレガートといられると、フィルは楽しみにしていた。

けれど、今は苦痛でしかない。
レガートに失望されたくない。
その思いだけで懸命に取り組むけれど、レガートは必要最低限の話しかしない。

目も合わせてくれない。
微笑んで、くれない。
 
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