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【第14話】レガートとの別れ
しおりを挟む今日はフィルの親衛隊での最後の仕事。ドラゴンにツェーの花を食べさせた。
お母さんドラゴンは、フィルは何も言わなかったがすべて解ってるみたいだった。チビ達三匹に眠ってもらうために、子守唄を歌った。部屋に着き、フィルは訊く。
「これから僕のすることは?」
『まず腹拵えか。……それから身仕度だな。王様の前に行くのに恥ずかしくないようにしなければ』
巡回中の大臣にフィルの存在がばれた。運悪く帽子を取った所だった。リトが上手く言い逃れをして、レガート達が罰せられることはなかった。
大臣は、
『今日から毎日王様に会わせるように』
と命じた。王様が唯一愛したフィルの祖母……アルト様に似た容姿と金の髪は王様の目覚めに強い効果を表すだろうと思われたようだった。
レガートが手を二回叩くと、薄い水色の髪をした二人の可愛らしい妖精が現れた。食器を乗せたトレイと、小さな籠に玉子くらいの大きさのポポの実があった。
それと白い器に盛られた野菜とチーズのサンドイッチとタンポポ珈琲。
「ありがとう。美味しそう」
『お声をかけて貰えて恐縮です』
二人の妖精は縮こまった。
「小さくならないで。あなたが作ってくれたんだね。服にソースがついてるよ」
フィルがそう言うと、
『も、申し訳ございません』
と妖精はちらちらレガートを見て怯えている。フィルは泣きそうな二人の妖精の髪を撫でる。まだ子供だ。
「いいんだよ。急いで一生懸命作ってくれて。怒ったりなんかしないよ。ありがとう。また、お願いするね」
『はい。ありがとうこざいます。フィル様のお食事が終わりましたら、王様にお会いになる支度をいたします』
フィルはもぐもぐサンドイッチを食べる。とても美味しい。フィルはポポの実を見るとおばあちゃんを思い出す。
身体に良いと言うから沢山採った。その度に嫌がらせにあった。当のフィルは今まで数えるくらいしか食べてない。おばあちゃんには、
「私はもう先にお腹が空いて食べちゃた」
と言っていた。じっと切なく懐かしそうに見ていると、レガートが、
『嫌い、だったか?』
気まずそうにフィルに訊いた。小さく妖精が、
『フィル様がお喜びになるのではと、レガート様が朝早く森の入り口で採ってきて下さったみたいですよ』
と耳打ちした。フィルはレガートを見つめた。
「レガート……ありがとう。嬉しいよ、歌は楽しいけど少しだけ疲れるから。美味しい。食べごたえがあって。レガートは?」
『私はいい。採りながら食べた。お前が食べろ。顔色が少し悪い』
レガートは優しい。勘違いしたくなる、というより……していた。フィルはレガートとずっと一緒に居たかった。居られると思っていた。親衛隊の皆と酒場に行ったり、レガートと唄を歌ったり。
「当たり前が一番尊いことだよ。一日として同じ日はない」
そう、おばあちゃんが言っていた。フィルは涙目になりながら、美味しいと繰り返し食べた。
『フィル、どうした?何か私に言いたいことがあるのか?』
「リトから聞いたよ。……掟のこと何で言ってくれなかったの?もう、レガートにも親衛隊の皆にも会えないの?」
レガートは黙った。長い沈黙が続いた。レガートは俯いて、答えなかった。軟禁され毎日王様の世話をする毎日とは、レガートには言えない。
「王様に…会ってくるよ……」
肩を落としたフィルは、二人の妖精の言われるがままに身仕度を整える。飾りたてられながらフィルは考えていた。
どうしてレガートだったんだろう。
それは、ここに来るとき初めて会った妖精だからじゃない。
フィル自身に似た孤独を抱える、口下手で、無愛想で、でも不器用にやさしい妖精さん。いとしい、いとしい紫の羽根。
もう多分二度とツェーの花畑にあの腕枕に横になり横顔を盗み見ることはないんだろう。
「言ってくるね」
そう、フィルは振り返り言ったが答えはなかった。ただ、食事中に、
「本当は食べてないんでしょ?レガートも食べて」
手渡した黄色いポポの実を大事そうに両手にくるんだ涙目のレガートの姿があった。
フィルはレガートに見つからないよう、支度をし終わり廊下で泣いた。
「レガート……レガート!」
好きな人の名前を、想いが叶わないと知ってから呼ぶのがあまりにもつらいことだと知る。フィルは二人の小さな妖精に付き添われながらずっと泣いていた。
『この部屋に王様がいらっしゃいます。私達はこれで失礼します。フィル様。涙をお拭きになって下さい。胸ポケットにハンカチが。フィル様のようなおやさしい方は今までアルト様しかいませんでした……。それでは失礼致します』
薄い水色の髪の子供の妖精は一礼して、ふわりと消えた。代わりに煙と共にドアの 左右に現れたのは衛兵姿の妖精だった。
『お名前は?』
野太い声の二人の妖精が睨むようにフィルを見る。
「フィル、フィル・フェルマータ」
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