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【第12話】レガートと親衛隊の仕事
しおりを挟む『魔女裁判か。あんな綺麗な唄なのに。それにフィル、無理して俺にまで笑うな。隊長も『無理に笑うフィルがつらい。こんな自分と一緒にいなくてはならなくて不自由ばかりで、しかも初めての土地で不安なはずなのに』ってさ』
フィルに口にはしない言葉。不器用に振る舞いの中のやさしさも嬉しいけれど、何より私を気にかけてくれるレガートがこそばゆい。
『隊長は古株のジジイに嫌味言われてばっかりで昔は鉄仮面みたいだった。だからあだ名が『氷の将軍』今、やっとかな、少しは笑うようになったけど。何の武芸でも隊長の右に出る奴はいないのに、王太弟だから親衛隊長になったって言う奴もいる。サシで戦って五分なのは、元気った頃の王様くらいなのに』
全部独りで戦ってきた。心無い周りの声を実力で捩じ伏せて。レガートはフィルよりずっと大人だ。
けれど抱きしめてあげたいとフィルは思ってしまう。腕の中であの綺麗な羽根を休めて欲しい。そう思い、レガートが乗った白いドラゴンの翔んでいった方角を見つめ、目を細めた。
そして、フィルはハッと、夢から覚める。自分はレガートにとって、ただの行き場のない珍しい金の髪の子供。
だからレガートがやさしくしてくれる。支えになりたいなんて思い上がっている。フィルは肩を落としツェーの花びらを摘む。きっと、綺麗なお姫様が好きなんだ。私みたいなあかぎれだらけの指じゃなくて、美しい宝石が似合うような……。
「レガート、ツェーの花……喜んでくれるかな………」
『喜ぶと思うよ。ドラゴンの主食だし。隊長、ああ見えて花好きだし』
実際レガートは、
『これでいつ冬が来ても大丈夫だ』
と喜んでくれた。他の皆も喜んでくれた。
『お前やるじゃん』
と言ってくれた人もいた。レガートに唄の話をすると、
『私の監督下以外で歌うのは避けてくれ。親衛隊内ではいい』
「どうして?」
難癖をつけたがる輩もいる。そう言うとレガートは少し黙った。
『部屋に帰ろうか、フィル』
抱きしめられての行きと帰りの空中散歩。レガートが触れた所だけ、フィルの身体は熱を持つ。
毎日、毎日、フィルはレガートを見つめる。紫の羽根が綺麗だと見惚れてしまう。親衛隊の仕事はやりがいがあって楽しい。
仕事に同じ日はない。それに、フィルにとってなによりも、レガートの役に立つのが、傍にいられることが嬉しかった。剣を持ってレガートの指南を受けることも、いつかこの人と、共に戦えたら。
だから親衛隊の太陽のピンを貰った時は、本当に嬉しかった。
一度「王様に会わなくてもいいの?」と聞いたことがあった。『今はいいんだ』と切なそうな目をするレガートに、フィルはそれ以上何も訊くことはできなかった。
親衛隊の業務には毎日参加した。フィルが行きたがった。レガートと一緒に居たい。フィルの願いはそれだけだった。
たまに見せるフィルだけに送られる微笑み。真剣な顔。
『氷華』を消す仕事では、親衛隊の皆に『消すのが上手い』と褒められた。初めて着いた仕事。次第に馴染み、親衛隊の皆とも仲良くなった。
少し前初めて酒場に行った。レガートがワインを飲むと白い肌がうっすら淡い桃色になった。
『フィル、こっちへおいで』
フィルを呼ぶレガートの声は、何故か艶めいて感じた。フィルはすっかり酔いが回り、横に並んで座るレガートの肩に頭をのせ、甘く清々しいレガートの香りに安心し、眠ってしまった。
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