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【第8話】暖かな泣き場所
しおりを挟む「恥ずかしいね。汚い手でしょ」
フィルは笑いに自嘲を隠してサッと両手を後ろ手に隠し言った。レガートは、フィルの頭を撫で、
『苦労をした手だ。無理に、すまなかった。しかしだ。普通、氷華に触れると酷い凍傷になる。もう一度、手を見せてくれないか?』
そうレガートに言われ、フィルはおずおずと手をレガートに見せた。
『翡翠の指輪………これは、王様がアルト様に賜れた、婚約指輪だ。やはり───』
「十歳の誕生日におばあちゃんが私に。幸福の扉を開けてくれた思い出の指輪だから大事になさい、と。決して外してはいけないよと言っていました。それ以来外していないよ?指輪、取りあげ……るの……?」
『まさか!そんなことはしない。そんな輩は私が許さない。そうか。アルト様はお前を、本当に愛しておられたんだな。とにかく良かった……お前が無事で。小さな手だ』
レガートは思わず握りしめたフィルの手を困ったように、そっと離した。戸惑いの表情を隠しきれないレガートは、とてもやさしい瞳をしていた。フィルが目を細め笑うと、レガートは、ハッとしたような顔でフィルから顔を背けた。
「レガート。あなたはとても素敵な人だね。ここで何人か妖精を見たけど、レガートには誰も敵わない。とても綺麗。羨ましいな。私は顔は普通だし、この金の髪のせいで嫌な思いしかしなかった……」
『妖精界では金の髪はいない。人間界でも、金の髪は稀有だと訊いた。そ、それに……お前は、愛らしい顔をしている。髪も綺麗だと……思う。瞳も大きく、口唇は、林檎のようだ』
少し照れ臭そうに、レガートはフィルを見つめ言った。
「あ、ありがとう。私を褒めてくれたのは……おばあちゃんとレガートだけ。人間の世界では、みんな……の、呪いだって、言ってた……。家に火をつけられて、畑をメチャクチャにされたことも何回もあるよ。なんであんなことされなきゃいけなかったんだろう……。私は、村は怖くて行ったこともなかったのに……。」
知らない存在。それが忌むべき存在、それだけで対象を攻撃する。生物の摂理だ。ただ、被害者にとっては……あまりにも残酷だ。レガートは、まだあどけなさをもつフィルを見つめた。
「食べるものは、育ちやすい、イモだけ。たまに行商の人が来て、多くとれたイモやおばあちゃんが森の葡萄のツルで編んだ籠をお米とかと交換して貰ったりしたよ。私の仕事は、森の入り口にある木の実を集めることだった。でも、村の人に集めた木の実を取られたりしたよ。殴られて……石をぶつけられて……おばあちゃんが亡くなっても、お葬式にも誰も来ない。私が独りでお墓を掘っておばあちゃんを埋めてお祈りしたよ」
フィルの瞳に涙がたまっていく。睫に凝った涙はポロリと落ちた。
「悲しくて、悔しくて、胸がつぶれそうだった!私、ひとりぼっちになっちゃったよ!誰もいない!誰も!私はこんな髪なんて、要らなかった!」
急に切なさがせりあがってきて、フィルは、レガートにしがみついて大声で泣いた。フィルの今までの積もった苦しみや、やるせなさが破裂した感じだった。
ずっと誰にも言えなかったこと。おばあちゃんには絶対言えなかったこと。
金色の髪なんて要らないなんて。
悲しませるのは解っているから。この髪はおばあちゃんの夢。誇りだった。けれど、フィルには、要らないものだった。
やっと泣き場所を見つけた子供のようにフィルはレガートにしがみついて泣いた。フィルが一番欲しい泣き場所はレガートだった。
温かいひと。フィルに金色の灯火をつけた、孤独を知る優しくて悲しいひと。レガートは最初、戸惑っていたが、フィルがレガートの広い背中に手を回し、胸に顔を埋め泣きじゃくると、レガートは躊躇いながら片手でフィルの頭を撫でた。
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