9 / 103
【第6話】金色の雫
しおりを挟むレガートの高い飛行にフィルはレガートにしがみつく。重くないかな、大丈夫なのかな。
風が気持ちいいけれど、空の高さに少しどきどきする。まるで空中散歩だと思った。
レガートのマントをぎゅっと握るフィルを見てレガートは笑った。確かに笑ったはずなのに、レガートの瞳から金色の雫が落ちた。地上に吸い込まれて消えていく。
「何か落ちましたよ?……宝石?大切なものじゃ、ないんですか?あんな、綺麗な……」
レガートが困った顔で羽ばたきながらフィルに答えた。
『ああ、大丈夫だ。そうか、お前にはあれは綺麗に見えるか』
「はい。きらきら金色に光って、綺麗でした。どうして?私、重かった…………?」
『言っただろう、羽毛のように軽いと』
おばあちゃん以外の人抱きしめられるのは初めてだった。妖精の──レガートの腕は暖かで、とてもいい匂いがした。清々しくて甘く、眠気を誘う。小さく穏やかな声がした。
『フィル……。目が覚めれば夢は叶う。今は夜だが、陽のあたる妖精の国は綺麗だ。私の不甲斐なさで完全な形ではないが、花は咲いて鳥も蝶もいる。お前の見たかったものが見える。少し眠れ」
……私は、醜い。こんな、鴉のような髪、紫色の羽根、手袋の下の朱い爪。穢い、異端なのだよ……高貴で美しい、か。フィル……気遣いだとしても、嬉しかった。ここには誰も……私を美しいと言うものはいない。蔑む者はあっても……レガートは、そう思い、金の雫を落とした。
フィルは、眠りにつくまえ、あの金色の雫、あれはレガートの涙だったと思った。見上げたらレガートは切ない顔をしていた。
このひとは、孤独を胸に飼っている。それに蔑まされ続けてきた痛みを知っている。鏡の前の自分に良くにていた。だからその痛みはフィルもよく知っている。
「……レガート、私がいるよ、だから、独りじゃないよ……私があなたを守るから。そんな悲しい顔しないで。それにあなたは綺麗だよ。宵闇の髪に、淡く輝くステンドグラスみたいな紫の羽。それにあなたは森でしわくちゃのハンカチをくれた」
言葉が喉につまる。否定されたら。出会ってろくに時間もろくにたっていない人間にそんなことを言われたら、迷惑だろう。
『お前の親切はいらない』
『好意を他人に押し付けるな』
そう言われるのが普通だ。それに、私はおかしい。会ったばかりの妖精さんの、しかも男の人に惹かれている。しかもこの想いはレガートの心に土足で入り込むようなものじゃないのか。
レガートに、嫌われたくない。でも、伝えなければ、何も動き出さない。もう、ここは村じゃない。隠れて、堪え忍んで、卑下するのはやめなければ。
フィルは、ぎゅっとしがみつくように、レガートの身体に回した腕に力を込めた。レガートの懐に顔を埋めくぐもった声でレガートに伝えたかった言葉を伝えた。
言葉も拙いものになってしまったが、途切れ途切れ伝えた。胸が切ない。フィルに初めて芽生えた感情が込み上げる。これを恋と呼ぶのだろうか。今、涙をこぼしたら、自分の涙も金色になるだろうか、と夢みたいなことを考える。きっと、ただの水滴。けれど胸に灯った小さな灯火の色は金色だ。
フィルは顔を上げ、じっとレガートを見つめた。濡れた頬に風が当たり涙を乾かしていく。切なくて、苦しい。フィルは顔を上げ、じっとレガートを見つめた。
『眠れ、フィル。……泣くな』
低い声がフィルの身体に響いた。レガートは強くフィルを抱きしめる。段々朦朧としてきて、フィルは意識を失った。レガートは脱力したフィルを大切に抱きかかえた。
『フィル、お前も私と共に過ごせば、きっと私を蔑むようになる。《この妖精の世界の皆と同じように》な。どうやら私は………欠陥品らしいからな──』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる