妖精の園

カシューナッツ

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【第6話】金色の雫

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レガートの高い飛行にフィルはレガートにしがみつく。重くないかな、大丈夫なのかな。
風が気持ちいいけれど、空の高さに少しどきどきする。まるで空中散歩だと思った。

レガートのマントをぎゅっと握るフィルを見てレガートは笑った。確かに笑ったはずなのに、レガートの瞳から金色の雫が落ちた。地上に吸い込まれて消えていく。

「何か落ちましたよ?……宝石?大切なものじゃ、ないんですか?あんな、綺麗な……」

レガートが困った顔で羽ばたきながらフィルに答えた。

『ああ、大丈夫だ。そうか、お前にはあれは綺麗に見えるか』

「はい。きらきら金色に光って、綺麗でした。どうして?私、重かった…………?」

『言っただろう、羽毛のように軽いと』
    
おばあちゃん以外の人抱きしめられるのは初めてだった。妖精の──レガートの腕は暖かで、とてもいい匂いがした。清々しくて甘く、眠気を誘う。小さく穏やかな声がした。

『フィル……。目が覚めれば夢は叶う。今は夜だが、陽のあたる妖精の国は綺麗だ。私の不甲斐なさで完全な形ではないが、花は咲いて鳥も蝶もいる。お前の見たかったものが見える。少し眠れ」

……私は、醜い。こんな、鴉のような髪、紫色の羽根、手袋の下の朱い爪。穢い、異端なのだよ……高貴で美しい、か。フィル……気遣いだとしても、嬉しかった。ここには誰も……私を美しいと言うものはいない。蔑む者はあっても……レガートは、そう思い、金の雫を落とした。
    
フィルは、眠りにつくまえ、あの金色の雫、あれはレガートの涙だったと思った。見上げたらレガートは切ない顔をしていた。

このひとは、孤独を胸に飼っている。それに蔑まされ続けてきた痛みを知っている。鏡の前の自分に良くにていた。だからその痛みはフィルもよく知っている。

「……レガート、私がいるよ、だから、独りじゃないよ……私があなたを守るから。そんな悲しい顔しないで。それにあなたは綺麗だよ。宵闇の髪に、淡く輝くステンドグラスみたいな紫の羽。それにあなたは森でしわくちゃのハンカチをくれた」

言葉が喉につまる。否定されたら。出会ってろくに時間もろくにたっていない人間にそんなことを言われたら、迷惑だろう。

『お前の親切はいらない』
『好意を他人に押し付けるな』

そう言われるのが普通だ。それに、私はおかしい。会ったばかりの妖精さんの、しかも男の人に惹かれている。しかもこの想いはレガートの心に土足で入り込むようなものじゃないのか。

レガートに、嫌われたくない。でも、伝えなければ、何も動き出さない。もう、ここは村じゃない。隠れて、堪え忍んで、卑下するのはやめなければ。
フィルは、ぎゅっとしがみつくように、レガートの身体に回した腕に力を込めた。レガートの懐に顔を埋めくぐもった声でレガートに伝えたかった言葉を伝えた。

言葉もつたないものになってしまったが、途切れ途切れ伝えた。胸が切ない。フィルに初めて芽生えた感情が込み上げる。これを恋と呼ぶのだろうか。今、涙をこぼしたら、自分の涙も金色になるだろうか、と夢みたいなことを考える。きっと、ただの水滴。けれど胸に灯った小さな灯火の色は金色だ。
フィルは顔を上げ、じっとレガートを見つめた。濡れた頬に風が当たり涙を乾かしていく。切なくて、苦しい。フィルは顔を上げ、じっとレガートを見つめた。

『眠れ、フィル。……泣くな』
 
低い声がフィルの身体に響いた。レガートは強くフィルを抱きしめる。段々朦朧としてきて、フィルは意識を失った。レガートは脱力したフィルを大切に抱きかかえた。

『フィル、お前も私と共に過ごせば、きっと私を蔑むようになる。《この妖精の世界の皆と同じように》な。どうやら私は………欠陥品らしいからな──』
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