妖精の園

カシューナッツ

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【第4話】資質調査

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「私はフィル・フェルマータです。リ、リト。今日みたいなことって?」
    
あまり喋るなと言うようにリトをレガートは目で牽制する。フィルがフェルマータの姓の名乗った瞬間、二人が一致したのは『やはりな』と言うことだった。

フィルは二人の目配せを不思議に思いつつ、考えるのをやめた。と言うよりぼんやりして思考力が落ちている。レガートはフィルに言う。

『妖精の国に来る者の資質調査だ。……イモは、あまり旨くなかったな。よくあれを食べて、ここまで来れたものだ』

クスッとレガートは笑った。フィルは顔を上げ、レガートを見据える。食べ物がない中、ひもじい思いをした中、おばあちゃんと育てたイモ。おばあちゃんと二人で並んで地面に座り、小さな声で、大きく育てと『大地の唄』を歌った。

思い出まで踏みにじられた気がした。フィルは悔しくて悲しい怒りにも似た感情が沸き上がり、握った手が震えた。このひとには、そんなことを言われたくなかった。おじいさんだった時と全然態度が違う。

「資質調査?だからおじいさんになって油断させたの?やさしいおじいさんじゃなかったんですね!騙して、色んな話を聞き出して……もう自分は長くないって思って、おじいさんには、私の分も長生きして欲しいって思ってたのに……」

悔しくて。悲しくて、フィルは大切な積み上げてきた幸せさえ、取るに足らないもののような扱いをされた気がして、
自分を偏見の目で、呪いの子と村の皆が呼んだように扱わない、優しいおじいさんに騙された気がして、やるせない感情に涙が出そうになった。

レガートは、自分の不用意な言葉でフィルを傷つけたと、紫の羽根がしょんぼり色を変えた。フィルの《外》の暮らしをきいていたからだ。
あまりにも、酷かった。想像していた、選ばれた《金色の娘》と、掛け離れた生活をしていたことを、レガート自身考えもしていなかった。

「それに、イモを馬鹿にしないで!一生懸命、おばあちゃんと畑を耕して、少しでも、おイモが大きくなるよう世話をしてたんです。それに、私の生まれてから今までのご飯は、ほとんどイモですよ!あなたが馬鹿にして笑ったイモですよ!……最後の、最後の一つだったんです……せめておじいさんだけには元気になって欲しかったのに………。馬鹿にしてっ!あなたも皆と同じですね!」

フィルは怒りで瞳を潤ませて、レガートを睨んだ。フィルにはもっと言いたいことはあったけれど、叱られた子供のような顔をするレガートにそれ以上何も言えなかった。

「……言葉が過ぎました。目上の方に。すみません」

リトは『氷の将軍』揶揄される、いつものレガートとの違いと、そして、羽根の色まで変えてしまうほど(妖精の羽根は心の鏡といわれている)羽根の色を変えるほど隊長は自分を責めている。
宮廷の舞踏会では姫様方には見たこともない、可愛いところがあるじゃないかとニヤニヤと二人を見つめた。

『いや、悪いのは私だ。すまなかった。不躾だった。許して欲しい。翁の時に話したが、お前の、その、色々な料理を食べてみたい。いつか作って欲しい。もう、歩く体力は残っていないだろう。それと、敬語は使うな。聞き飽きている』

レガートはフィルを、ふわりと抱きかかえた。黒革の手袋越しにでも伝わる温度が温かい。

『……羽毛のようだな、軽い』

「な、何するんですか!下ろして!」

フィルがじたばたと身体を動かし、そう言った瞬間、レガートは、ぎゅっとまるでフィルが逃げないように抱きかかえる腕に力を込めた。
フィル自身、言い放った言葉とは違って、暖かなレガートの腕の中は、とても気持ちがよくて、本当は下ろして欲しくなかった。想像だけど『上質な毛布』に包まれているみたいだと思えた。

『暖かいだろう?甘えることは恥ではない。お前は与えてばかりだ。この足では、もう歩くのも難儀なはずだ……。全てを与えてしまうのはお前の美徳だと思えるがな』
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