98 / 103
【第89話】舞踏会
しおりを挟む『王子様…私です……』
何処か聞き覚えがある女性の声が、広間に響いた。
『王子様……私がお解りにならないのですか?私です……私です』
広間にレガートの声が響く。
『クレシェンドだろう?手を。私とワルツを踊ろう。私達だけの舞踏会だ…観客は不粋だ。必要あるまい?楽隊。音楽を。さあ、手をクレシェンド』
小さく灯された灯火。楽隊は音楽を奏でるが、広間はほとんど真っ暗なままだ。
レガートと声の主はまるで、
きらびやかな大広間を蝶が舞うように軽やかな足取りでステップを踏んでいく。
『クレシェンド、満足か?』
『嬉しいです。ずっと、王子様のことだけは忘れたことはありませんでした。綺麗な、思い出。王子様、私は幸せです。夢が叶った……。あのとき、ドレス姿の私を見つめ、抱きしめて下さった。なのに王子様は羽根を落とされて……。覚えているのはそこまで。そして、幼い頃の舞踏会の約束だけ。王子様、あの子は…?』
『……ああ。スタッカートも元気だ。クレシェンド。幸せか?』
暫くレガートとクレシェンドの影と思われるものとの会話が続いた。
『クレシェンド何も思い残すことはないな?』
『……はい』
レガートは声の主に跪き、床に手の平をつけた。浮かび上がる魔法陣。
レガートはダンスを踊りながら魔法陣を張っていた。陣の中心にはレガートと、ひとの形をようやくとり留めている黒い影があった。レガートはスッと中心から離れた。
『もう、空へ行け。クレシェンド。ここに縛られるな。不幸になるだけだ。これからお前を送る、空の使者を呼ぶ』
『また別れ別れに?どうか、それだけは。
王子様ともう離れたくないのです。ずっと待ち続けました。会いしたくて、お会いしたくてたまらなかった……けれど何故かこの城には入れなかった。何かが私を阻みました。ですが、今日は舞踏会。ドレスコードだけで入れました。どれだけ焦がれたか。王子様に会えることを、どれだけ、どれだけ……!』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる