妖精の園

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
90 / 103

【第81話】甘い癒しの時間

しおりを挟む

首筋に口づけし、衣服を剥ごうとしたレガートをフィルは押し返す。
目の前のお菓子を取り上げれた子供のようにレガートは目を丸くする。

「病みあがりでしょ。駄目。お医者さんに言われたばかりだよ」

『もう、限界だ!』

「ご飯冷めちゃうよ。駄々こねないで」

    フィルは、脱衣所で着替えながら振り返りレガートを見つめる。

「早く元気になって。元気になったら飽きるほど抱いて」

  
少女から女性になりきれていないような、まだ頼りなさが残るが、

淡い微笑みを浮かべるフィルは、

匂いたつ色香があった。

『先へ行っていてくれ』




    さっと後ろを向いたレガートの雰囲気で何が言いたいのかは解った。

「……わ、わかった。何かごめんね」

パタパタと遠ざかる足音。レガートは手早く自らを慰めた。





水に靡くフィルの長い金色の髪。そして、
「欲しいなら、全部あげる……」
あの言葉、ゆらゆら揺れる、あの瞳……

手に放たれた白を洗い流し、レガートは脱衣所で普段の服に着替える。


いつもの食事。
ぎこちない会話も次第にいつも通りになる。フィルは席に着いたレガートに粥を食べさせる。レガートはフィルと食べる食事が一番好きだ。
他愛ない話も楽しい。

「とうもろこしのポタージュのお粥だよ」

『甘くて、美味しいな』

「口開けて?熱かった?」

『いや……大丈夫だ』
    
この童子のような食事が最初は堪らなく恥ずかしかったが今は少し楽しみにしている自分がいることにレガートは気づく。
他人には言えない、フィルとの秘密。

あっという間に粥の残りはわずかだ。

「良かった。昔おばあちゃんが体力が弱っているときにはこれがいいって」

『いつもの蜂蜜ミルク粥もいいが、このとうもろこしの粥は身体の内側まで暖かくなる気がする』

美味しい、幸せだな……。レガートは噛みしめるように言った。

『タカタカの実を食べようか。私が剥こう』

大きなタカタカの実をレガートは手に取るとスッと薄く皮を剥き、半分にして、フィルに手渡した。



『今まで……すまなかった。そして、ありがとう。こんな私を、待っていてくれて。
愛して…くれて。……白鳥が神官の、栗鼠が証人の結婚式もあげた。幸せに、なろう。魔女の遺産のような痛みは、もうない。フィル、愛している』
   
 二人で同時にタカタカの実を齧る。

「美味しいね」

『ああ。美味しい』

フィルは笑う。
確かに笑ったはずなのに涙が溢れた。
溢れてとまらない。

レガートも泣いていた。朝陽にきらきら金の雫が反射し眩しいくらいに綺麗だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...