88 / 103
【第79話】邪術花
しおりを挟む「対処法は?」
『……ない。また、黒い花が育つまで待つしかない。昔古い本で呼んだ。永遠に痛みと共に、惨い記憶を掘り起こされるのか……』
疲れた顔をして、レガートはベッドに音を立てて横になる。
フィルの名前を呟くように呼び、レガートは言った。
『報いだな。幸せになりたかったんだが。
フィル……これが一生続くのか……』
レガートは乾いた声で笑った。
「レガート、疲れてるところごめん。どうしても、行きたいところがあるの」
向かった先はドラゴンの厩舎。
ドラゴンは『聖なるもの』と、昔レガートに花嫁修行で教わった。
「ちょっと待ってて」
フィルはお母さんドラゴンにことの次第を伝えた。
《どうにか……ならない?》
《クレシェンドもえぐいね。幻術と邪術花をレガートにかけていくなんて。花はむしってちゃんと燃やしたね?》
《うん、聖なる火で燃やしたよ》
《ちょっと疲れるけど光を出そうか。フィルのお願いだからだよ?ドラゴンは誇り高い生き物なんだから。いつも美味しいツェーの花、ありがとうね。でも、レガートには厳しいかもしれないねぇ》
《どうして?》
全てを思い出すからさ。
そう言いお母さんドラゴンは黙った。
フィルは、レガートにその話をした。
「……どうする?」
『お願いしよう。永遠にこの苦しみが続くより、いい』
レガートは、御祓をし、白い絹の衣装を着た。
王様とアルト王妃にも知らせた方がいい、
というドラゴンのお母さんの指示で、
フィルは伝書鳥で王様に知らせた。
しばらくし、白い魔法衣を着た王様とアルトおばあちゃんがきた。アルトおばあちゃんは『反魂』をされ狭間から還ってきてから『幻視』が出きる。薄桃色の妖精に化けた魔女を見破ったように。
《始めるよ》
お母さんドラゴンが吼えた。
王様が書いた魔法陣にレガートが入る。
フィルと王様とアルトは王様の守りの結界に入った。お母さんドラゴンはレガートにむかって光を吐いた。だんだん眩しくなっていく。
まるで太陽が破裂するような光に包まれ、
レガートが見えなくなる。
フィルにはレガートが光に飲み込まれて消えてしまうかのように思えた。
「レガート!レガート!」
フィルは駆け出しそうになるのを、おばあちゃんに必死でとめられる。その時だった、お母さんドラゴンの声で、
《花が出たよ!滅して!》
と聴こえた。暗闇に逃げようとする黒い大きな蜘蛛を見ておばあちゃんが「花が逃げるよ!」と言い、エーエフの針のついた指輪で突いたけれど、まだ浅い。蜘蛛は動きを鈍くしながらも、まだ逃げようとする。
王様が、おばあちゃんを庇うように、
『アルト!離れろ!』
と言い、腰に差した退魔のエーエフの長剣を抜き、蜘蛛に化けた花の中心を思い切り突き刺した。
魔女の断末魔にも似た音がして、花は光と共に消えた。
《レガートに、聖水をかけておやり。これで全部終わったよ》
ぐったり意識を失ったレガートにフィルは駆け寄り聖水をかけた。
「レガート……レガート……」
軽い火傷の痕のように、胸に魔法陣が残る。
《これからが大変かもしれないね。レガートは記憶を思い出す度に、酷く苦しんでた。今、全て思い出したんだ。解るね、フィル》
『うん……』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる