妖精の園

カシューナッツ

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【第77話】レガートの償い

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「レガート……これがあなたの贖罪なの?私を残して空へ行くつもりだったの?」
    
喉まで出かかった言葉を飲み込む。私は知らないふりをする。レガートと目が合う。フィルは咄嗟に目を逸らす。

「うまくいくかな。触れる指輪を意識して」

『ああ、解った』

フィルはレガートに気を送るように指輪に念じながら、魔法の力で『増えて』とも念じる。繋いだ指先に白い雪のようなものがきらきら降り、それらが全てレガートに吸い込まれていく。小半時ほどそうしてたろうか。

医師の妖精さんに言われた時間を守る。

『暖かくなり、心地よかった……フィル?』

「………」


『どうした?』

「し、知らない!私は、何にも、知らない!」

フィルは本当に嘘が下手だな。そう言い、レガートは、切なく笑う。

『背中を、見せてくれないか?』

と訊いた。フィルは何も言わず、夜着をはだけさせる。背中にレガートの冷たい指先が触れる。

『綺麗に、治った。良かった。痕もない』

フィルは喚くようにレガートの上着を掴んで揺さぶる。

「良くない!全然良くない!それが、レガートの贖罪なの?私につけた傷を全て治して、レガートは、いなくなっちゃうつもりだったの?」

『フィル……』

「折角レガートのお嫁さんになれたんだよ?二人で幸せになろうって言ったじゃない!こんなの全然嬉しくない!嬉しくない!レガートがいないなら、どうして私はここにいるの?答えて!答えてよ!」

レガート!フィルが悲壮な声で詰め寄るとレガートは左目から、一筋金色の雫を零した。

『毎日、怖い。いつも、フィルがいなくなるのに怯えている。あの頃の自分のしたことが動く写真のように思い出すんだ。私は操られていたとはいえフィルを傷つけた。私には幸せになる資格がない。私にはフィルと幸せになることは許されない。せめてもの償いにと、妖精の気を送っていた。あの時間の痕跡である傷痕を消すことが出来たら。苦しい。苦しいんだ』

フィルはレガートを懐にいれ抱きしめる。

「なら、なおさら!償いなら、なおさら傍にいて。苦しみは、分けよう?分かち合おう?指輪に誓った気持ちは、生きるためのものだよ。資格なんて誰が決めたの?決めるとしたら私よ。レガートは悪くない。私はレガートと生きたい。皆が、国中の皆がレガートを悪く言っても、私がレガートを守る。レガートは悪くない。独りで苦まないでいいよ。今日からは私がレガートを胸に抱いてあげるよ。毎日お粥も作ってあげる。レガート、私に甘えて。私を頼って。
レガート、私と一緒に生きよう?」


そう言い、フィルはベッドで向かい合わせになったレガートをぎゅっと胸に抱く。

フィルはレガートのさらさらの黒髪を撫でながら、言った。

「もう、いいんだよ。苦しまなくて、いいんだよ。レガートが僕が『眠った』後も、ずっと謝っていたの、知ってたよ。もう、終わったこと。謝らないでいいよ。これからを二人で考えよう?たくさん思い出を作っていこう?」

『そうだな……早く正式にフィルのお披露目と婚約披露の儀をあげなければな』
「うん。うん……」


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