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【第76話】フィルに言えないこと
しおりを挟む『皆に疎まれた。気味が悪いと。私はフィルにこの姿を『高貴で美しい』と屈託もなく言われ、……救われた。誰も、私を美しいなどと言うものはいなかった……。穢いと、呪いと言った。いつも独りだった。そんな私にやさしく、誠実に、正面から向き合ってくれた。そんなフィルに惹かれた。
恋に落ちた。初めて愛しいと思えるひとに出会った。大切にしようと心の中で誓った。なのに……悲しませてばかりだったな』
レガートは、窓の外を見る。しんしんと雪が降っている。
二人きりになってベッドに揃って横になると天窓から、はらはらと雪の華が降るのが見える。
『すべて……私がフィルにしてきたことが、積もる雪のように白く消えてしまえばいいのにな』
「過去は過去。嫌なことは袋に詰め込んで捨ててしまえばいいよ。これからは、前を向こう?小さいレガートが誰にも甘えられなかった分、私が甘やかしてあげるから、
好きなだけ甘えて良いよ」
小さく、恥ずかしそうにレガートは言う。
『新婚……だからか?』
「うん。それもある。それと、レガートがレガートだから。あと、今日からお医者さんが毎食後にこれ飲んでって。苦くないし、口の中で溶けるんだって」
そう言いフィルは枕元の小箪笥を開け、袋から小さな錠剤を渡す。
『フィル……これがなんだか解っているのか?』
ドキリとした。茶色っぽい錠剤。
フィルは今のレガートの状態が命に関わることはレガートには伏せてある。
口にするのが、認めるのが怖かった。自分のせいで、レガートの生命が危ないだなんて。
『非常に強い精力増強剤だ……フィル、何か話したか?』
フィルは懸命に嘘をつく。
「最近、レガートが元気がないから、元気の出る薬を出してとは言ったよ。お医者さん、ち、ちょっと別な方向にとったんだね。でも、飲まなきゃ駄目だよ。一応処方薬だからね?」
『照れくさいな。新婚の新郎が精強剤とは。励めと医師に言われている気分だ』
「あ、お医者さんが当分は閨は無しって。私に妖精の気を分けたせいで見えない疲労がたまってるって。私の指輪の力も分けてあげなきゃならないくらいだし」
そ、そんな………と、標的を目の前にして猟師に『待て』をかけられた狼のようにフィルを見上げるようなレガートが可愛らしい。
「そんなに私のこと抱きたかったの?」
頬を撫で訊くと、耳まで赤くして小さく頷くレガートがまるで年下のひとのようだった。
フィルはそっと頬に口づけてフィルは、
「元気になったら、ね?」
と笑った。フィルは軽く腕捲りをした。
「さて、魔法の時間ですよ。旦那様、私の手を」
『だ、旦那様か……照れるな。…て、手だったな。フィル、すまない……確かに最近疲れやすいんだ。何故だろうな』
困ったように、フィルにレガートは両手に預ける。フィルは胸が掴まれるように痛む。レガートは、知っている。
これからの自分の生命の蝋燭の長さも、理由も、本当は誰よりも一番解っている。
知っていた上で、フィルには黙り、知らないふりをしている。
………『妖精の気を分けるのに、一日一回でも多いのに、多分フィル様には内密に頻繁に気を送ってらっしゃる……いくらレガート様と言えど自殺行為に近い。羽根の色だけで良く気がつかれましたな』
……… とお医者さんが言っていた。薬を飲み、言ったことを遵守しなければ、レガートの生命が危ない………
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