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【第69話】死を覚悟した妖精の気
しおりを挟む『フィル、どうした!私に用事があるときは水晶の笛を吹けば駆けつけると言ってあるのに!こんな無理をして……!』
「どうでもいいよ。そんなこと。……夜、私が眠ったあと、バルコニーから忍び込んでたでしょ?妖精の気、眠る私に分けてたでしょ……。どうして? 贖罪のつもり?
だから一生懸命妖精の気を送って、生命まで削って、体調を崩してまで、私を若返らせたの?私はあなたをもう、恨んでない! 憎んでない! なのに、なんで? 今度は罪悪感で私を縛るの? 私は一日一回、あなたの手が僕に触れるだけで、嬉しい。この国に残ろうということは、あなたの傍にいたいと思ったから。あなたがいなくなったら、私は何の為に生きればいいの……?」
フィルは胸が苦しくてレガートの腕を掴む。
「苦しい、胸が痛い」
『フィル、医師を呼ぶから。待っていろ』
「体力が無いだけ。寝てばかりだったから」
フィルが咄嗟に掴んだレガートの腕を離すと、ふわりと身体を持ち上げられた。
暴れても非力だ。
動けない。
レガートのベッドに横たえられる。
「嫌だ!穢い!前みたいに廊下に放り出せばいい! 二人が使ったベッドなんて嫌よ!」
『………もうすべて、部屋の物は新調した。ベッドも、シーツも、家具もすべて。休んでいくといい』
そう言いレガートはベッドに壁を向いて横になり黙り込んだフィルに、毛布をかけた。柔らかくて滑らかな生地。暖かなレガートの匂いがする。とフィルは思う。
『すまない、フィル。妖精の気を勝手に送って。足らないと思った。一日一回では、今を『維持』はできる……だが、気を送らなかった時間が長すぎて『経過』が始まっていた。このままでは、妖精の国の時間の流れには『逆行』出来ない。簡単に言えば、フィルの正しい姿に戻らない。だから夜ならと。見つからず秘密裏に妖精の気を送れると思った。無体なことは何もしていない。いや、手を握り祈った。すまない。暖かく、小さな手が、いとしくて、つらくて。フィル、時間の経過は『終わり』も近づくと言うことだ。死ぬべきなのは私だ。フィルじゃない』
目を伏せる睫毛に凝る金色の雫が切なくて、
フィルはベッドの端に所在なさげに座るレガートを後ろから抱きしめた。
「……怒ってごめん。そうは言うけど、鏡で見たら戴冠式の頃と同じよ。もっと言えば、ここに来たときくらい若返ってる。私は死なない。だから、レガートも簡単に自分を捨てないで。私の生きる意味は、レガートと共にあること……これからどうしようか。どうしたらいいんだろうね……」
フィルは座り直しレガートの横に座る。
繋いだ手が温かい。
『そう言えば、今日妖精の気を送ってなかったな。大丈夫だ。無理はしない』
レガートは力なく笑いながら泣いているように見えた。
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