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【第65話】レガートの生命の珠
しおりを挟む《いつみてもフィルは綺麗だね。
胸の灯りを消さないで。魔女に陥れられて幸せになったものはいないんだよ。蘇ったアルト様とフィルには幸せになって欲しいよ》
はっ、とフィルの表情が消える。
レガートは最後の思い出作りをしようとしてると気づいた。
フィルが人間の世界に帰ると言ったから。
だからこうして、ここに連れてきた。
思い出への挨拶のように。
幕を上げたのはフィル。そして最後の幕引きもフィルがした。
ベッドにしがみつき泣くレガートを見つめ、髪に触れながら、あのときフィルは、ただ終わらせることを考えていた。
心に金色の灯をくれたこのひとを真っ黒になるほどの憎しみで染める前に、と。
この恋は終わったんだと自分に言い聞かせて。
レガートもフィルの気持ちを解っていた。だから車椅子を使ってまで外に来た。
《今更、遅い……。レガートを傷つけた。
まだ、あなたを好きだって、操られてたとは知らなかった、じゃすまないよ》
《素直な気持ちをありのままに伝えてごらん。きっとうまく行くよ。あたしにはフィルの金色の灯が見える。レガートの灯もね。だから大丈夫。レガートに運んでもらいなよ。王様の部屋のバルコニーまで。行っておいで。……まだ、レガートが怖いだろ?中々癒える傷じゃない。ゆっくり、だよ。急がないでいいんだよ。愛することと、許すことは似てるけど違う。つらかったね》
《うん……うん………》
フィルの大きな瞳からポロポロ涙が落ちた。
《ありがとう》
とお母さんドラゴンに言い、柵から手を離し、よろよろと立ち上がり歩いた。
レガートは車椅子を携えドラゴンとフィルとの会話を見ていた。
フィルはおぼつかない足取りでレガートの居る扉の近くまで歩き、レガートの腕を掴む。
怖い、でも、見上げた先の目差しは昔と変わらないやさしい瞳。
『フィル……?』
『…レガートの庭に行こう?』
キイキイと車椅子が音を立てる。
寒そうな音だとレガートは思い、
膝掛けを忘れたのでフィルが嫌がるのを承知でマントに暖かくなる魔法をかけた。
フィルは嫌そうな表情は出さず、軽く微笑んで「ありがとう」と言った。マントちゃんが、繊維に空気を含んで大きくなろうとしてるのが可愛らしい。
レガートは胸が酸っぱいものを飲み込んだような感じがした。
けれど、すっかり細くなったフィルのふくらはぎを見て心が痛んだ。
あんなに『好きだ』『愛してる』と言っておいて、簡単に魔女の術に引っかかって。
こんなに、折れてしまいそうなほど、細く……そしてそうしたのは自分ということがあまりにもつらかった。
稀に思い出す、靄のかかった写真のような風景。あまりにも残酷なものばかりでレガートは頭がおかしくなりそうになる。
レガートは師のシンフォニアに言われた。魔女クレシェンドの言葉は嘘だった。
レガートの生命の珠は揃っていた。
しかし、あの三ヶ月の生命の珠の中身はご丁寧に邪術がかかっていて、機能を果たしてない、無いものと同じだとシンフォニアは言った。
そしてシンフォニアはクレシェンドがレガートの生命の珠にかけた術を解こうとしたが術の全ては解けなかった、と。
シンフォニアが解いた一部。目を覆いたくなるものばかり。許してくれ、なんて言えない。あまりに酷い。 蹲り、「どうして……?」と問いかけるように、レガートを見上げたフィルの頬をこの手は叩いた。
何回も何回も、酷く腫れあがり内出血するまで繰り返し……今ここに居てくれるだけで奇跡のようなもの。
本当に人間の世界に帰ってしまうのだろうか。帰って欲しくない。一緒にいたい。
せめて、償いをさせて欲しい。止める権利など、ないけれど。そう思い、レガートはうなだれた。
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