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【第64話】クレシェンドの遊び
しおりを挟む《クレシェンドの復讐と娯楽。アクセント王と結ばれず、精神が壊れ嗜虐の塊のようになったクレシェンドは自分と同じ金の髪の恋人たちを見るとその仲を一番残酷な方法で引き裂くんだよ。今から十八代前になるかね。外の世界から迷いこんだ金色の髪のトーン姫とテナー王子は、フィル達とほぼ同じ。トーン姫は毒を飲んで自害した。
テナー王子は自責の念に悩まされ羽を落とし、自害した。アルト様の場合、国が凍りつき、愛した王様を眠りにつかせたと生涯自責の年にかられ、誰もいなくなった音もない氷の世界から、人間界に帰り、王様は眠りにつかれた。今回はフィル。アルト様がいなかったら命はなかった。アルト様が退魔のエーエフの結晶で魔女を退治したけど、あたしにはまだうっすらまだ気配を感じる。レガートにも、嫌な術の香りを感じる。まあ、もうクレシェンドには大それたことする力は残ってないだろうと思うけどね》
《ちょっと待って!レガートは、ただ、無意識に操られてたの?自我とか、意識もなく?》
《そうなるね。レガートはフィルを傷つけるためのクレシェンドの操り人形さ》
《……私、酷いことをした。酷いことも言った……ずっと一緒にいようって言ったのに、人間の世界に帰るって言っちゃった。
レガートは、悪くないのに。思い出せるはずがないよ、自我がなくて操られてたんだから。知らなかったよ。操られてたなんて。レガートを一方的に責めた。でも、私だってつらかった! レガートが怖い。もう触れられるのが怖い……あの三ヶ月は痛くて、悲しくて、つらかった!……レガートが憎くてたまらなかった。でも、一日の終わりに…眠ろうとする度にレガートの泣き顔が、金色の雫が浮かぶんだよ。どうしたらいいの?解っていても許せない。だってあの三ヶ月はレガートにとっては夢みたいなものでも私にとっては真実なんだよ!許せない!許せないよ!》
泣きながらの大声で叫ぶフィルに、レガートがそっと歩み寄り、肩を抱こうとして、躊躇い、代わりにマントちゃんをかけた。
マントちゃんはレガートの腕のようにそっと優しく包み込む。
『ごめんな』
フィルは振り向いた。つらそうな顔を隠そうとするレガートの顔があった。
『ごめんな、フィル』
涙で視界が滲む。フィルの涙は止まらなかった。俯いたレガートをフィルは抱きしめた。
「レガート、レガート!」
フィルはレガートにしがみつき声を上げて泣いた。清々しい甘い胸の香り。レガートは躊躇いながらそっと腕を回した。
フィルはレガートの腕の中で叫ぶように泣いた。マントちゃんは二人を暖かく包んだ。
「私はあなたを許せない。怖いんだよ。なのに、あなたの悲しい顔はつらい」
お母さんドラゴンはフィルにやさしく語りかけた。
《フィル、さっき『許せない』と言ったね。当たり前だよ。神様じゃないんだし、
最初から全てを許して受け入れるなんて無理な話だよ。つらかったね。フィル、レガートに歩み寄りたいなら、毎日少しづつ触れてごらん。心にも身体にも》
ありがとう。お母さんドラゴンさん。
そう笑ってフィルは《祝福の口づけを》とお母さんドラゴンの額に口づけをした。
お母さんドラゴンは、笑い、ポポポッとマッチの火くらいの金色の火をはいた。
胸に、金色の灯りがつく。
小さく小さくゆらゆら揺れるあの灯りが息を吹き返した。
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