妖精の園

カシューナッツ

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【第61話】レガートの悲しみ

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「………妖精の国に来なければよかった、そんなことを私は言ったね。そんなことはなかったよ。来てよかった。おばあちゃんにまた会えた。王様にも、リトにも、ドラゴンに乗って、そのドラゴンの赤ちゃんも抱っこした。幸せだった。人間の世界では、ただ、毎日生きることに精一杯で、幸せを探すのは後回し。ここで過ごした日々は、まるで夢のようだった。──あなたにも、会えた。ただ一つの間違いは、あなたを本気で愛したこと。だから、傷ついた──あなたを愛してたよ。心から。もう、誰も愛さなくていい。もう、一生分使いきっちゃった。恋にも愛にも終わりがある。私はそう思う。いい機会だったんだよ。あなたが初恋だった。最初で最後。………私はやっぱりあなたが怖い。怖いの。あの時間が消えないのよ。今あなたがしようとしていることは解る。生命の珠は壊さないで。あの三ヶ月に惜しいものなんか何もないけど」 


フィルは穏やかに言った。レガートは身体を起こしたフィルの膝に縋りつきながら言った。 


『フィル、嫌だ、嫌だ!終わりにしたくない、……私がフィルにしたこと、全部消してしまいたい。これ以上、そんな目で私を見ないでくれ。フィルだけだ。フィルしかいないんだ。私が幸せを感じるのはフィルと居るときだけなんだ』 


フィルは寂しそうに言った。


「……その私にあなたは言ったの……『死ぬならよそで死ね』って。私じゃないひとを抱いたあとで。あなたにとって三ヶ月は甘い幻。私には地獄だった。でもね、もう、いいんだよ。私を忘れていいんだよ。泣かないで。あなたは新しい恋を見つけて。ありがとう、私を愛してくれて。今は安らかなんだ 。レガート、昔の私はあなたを確かに愛していたよ。でも、今の私は、あなたを愛せるか解らない。幸せな記憶だけ残して、あの三ヶ月が消えてしまえばいいのにね………。私は王様に陳情する書類を集めないと」


 『フィル……嫌だ!嫌だ!人間の世界になんか行かせない!』

 レガートはベッドに横になるフィルを、かき抱いた。普段から細身だったフィルは、まるで骨と皮でできてるようにレガートには感じられた。フィルの胸に顔を埋め、

レガートは、ずっと

『フィル………フィル………』

と繰り返し、泣き続けた。

その度にレガート の瞳から、金色の雫を零す。フィルはレガートの髪を撫でる。さらさらの長い黒髪。好きだったな。

やはり手触りは猫のよう。夜着にしがみつくレガートを見つめる。あまりに憐れで切ない。こんなことをする人ではないのに。

いつも凛として余裕がある、不器用な、やさしい人だった………。


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