69 / 103
【第60話】想ったことに疲れても
しおりを挟む『かえ…る?人間の…世界に……?』
呆然と立ち尽くすレガートから金色の雫が一つ、二つと落ちる。大理石の床に何滴も落ちて、カツンカツンと硬質な音を立てる。
『フィル、フィル……覚えてないんだ。ぼんやりした夢を一生懸命思い出そうとしているような、霧がかかった感じなんだ。自分でもフィルが言うようなことをしたとは信じられない。それとも、歪んだ自分の本性がクレシェンドの術で現れただけだったのかもしれない……すまない。フィル。許してくれとは言わない。許されるべきではない。それでもフィル、こんなことは言えた義理ではないが、私には、フィルだけだ。愛しているから。フィル、フィルだけを愛している。ずっとだ。これ以上嫌いに……ならないでくれ。悪いところは直す。 何でもする。フィルのためなら何でもするから……傍に居てくれ、いや、傍にいることを許してくれ………フィル…お願いだ。フィル……行かないで。私を置いて、行かないで………』
レガートが泣いている。金色の雫を何滴も落として、床に跪いて、フィルに縋る。
悲しい、悲しいと訴える。
フィルは思う。悔しいけれど、認めたくないけれど、やはり自分はこのひとをどこかでまだ愛している。
だからこのひとの泣いて縋るように『フィル』と名前を呼ばれると、引っかかれたように心が痛む。
けれど、裏切られたという恨みや、怒り、憎しみは消えない。
嫌いになったわけじゃないけれど、想うことに、疲れてしまった。想いが溢れ、飽和した。
もう、潮時だ。
でも思い出は消えるわけじゃない。
愛した事実も、
愛された事実も。
確かにレガートと空を飛んだ出会った日、
胸の中に金色の灯火が灯った。
それは変わらない。
すべてのことは、始まりがあれば、終わりがある。最後へ向けて、優しく笑顔で。培った幸せな時間に価するように。深呼吸をして、フィルは言った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる