妖精の園

カシューナッツ

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【第60話】想ったことに疲れても

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『かえ…る?人間の…世界に……?』

呆然と立ち尽くすレガートから金色の雫が一つ、二つと落ちる。大理石の床に何滴も落ちて、カツンカツンと硬質な音を立てる。 


『フィル、フィル……覚えてないんだ。ぼんやりした夢を一生懸命思い出そうとしているような、霧がかかった感じなんだ。自分でもフィルが言うようなことをしたとは信じられない。それとも、歪んだ自分の本性がクレシェンドの術で現れただけだったのかもしれない……すまない。フィル。許してくれとは言わない。許されるべきではない。それでもフィル、こんなことは言えた義理ではないが、私には、フィルだけだ。愛しているから。フィル、フィルだけを愛している。ずっとだ。これ以上嫌いに……ならないでくれ。悪いところは直す。 何でもする。フィルのためなら何でもするから……傍に居てくれ、いや、傍にいることを許してくれ………フィル…お願いだ。フィル……行かないで。私を置いて、行かないで………』 



レガートが泣いている。金色の雫を何滴も落として、床に跪いて、フィルに縋る。

悲しい、悲しいと訴える。

フィルは思う。悔しいけれど、認めたくないけれど、やはり自分はこのひとをどこかでまだ愛している。





だからこのひとの泣いて縋るように『フィル』と名前を呼ばれると、引っかかれたように心が痛む。

けれど、裏切られたという恨みや、怒り、憎しみは消えない。




嫌いになったわけじゃないけれど、想うことに、疲れてしまった。想いが溢れ、飽和した。


もう、潮時だ。

でも思い出は消えるわけじゃない。
愛した事実も、
愛された事実も。


確かにレガートと空を飛んだ出会った日、
胸の中に金色の灯火が灯った。
それは変わらない。

すべてのことは、始まりがあれば、終わりがある。最後へ向けて、優しく笑顔で。培った幸せな時間に価するように。深呼吸をして、フィルは言った。
 
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