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【第59話】タカタカの実の思い出
しおりを挟む昔は幸せだった。修練でレガートを想うのに限界を感じたけれど、金色の灯りは消えなかった。今も灯りはあるのだろうか。
解らない。 その日もフィルは、ぼんやりベッドに仰向けに横になり、妖精と花が描いてある綺麗な天井を見つめていた。
いつものように鈴が鳴る。
レガートだった。
珍しく少し大きめの籠に大きなのタカタカの実があった。反射的にフィルは、
「捨てて!」
と叫んだ。レガートは困惑した様子で、
『タカタカの実、前に嬉しそうに……好きだって…一緒に…食べた。王妃さまを反魂した後、よく二人でレガートの庭でピクニックをした。フィルが『大地の唄』を歌い、花畑を作った。そこでフィルが作ったお弁当を食べた……』
レガートは、とぎれとぎれ言った。怯えるように。成程、とフィルは思う。これ以上毛嫌いされないように言葉に慎重になっているのか。
あの頃のレガートは何でも喜んでくれた。
フィルはレガートが喜ぶ顔が好きだった。
「デザート忘れちゃったね」
としょんぼりフィルが言うと、レガートが得意満面なまるで子供のような顔をして、
『もしものために、持ってきた』
とタカタカの実のとても大きな、蜜柑くらいあるものをレガートは鞄から出した。二人で半分にして食べた。
「ありがとう、レガート。美味しいね」
『また、一緒にこうして過ごしたい』
フィルは座るレガートに寄りかかる。
温かい。
いい匂い。
安心する。
「私は、お弁当を作るから、タカタカの実はレガートが持ってきて」
口唇を重ねると甘い味。
レガートとタカタカの実と、穏やかな幸せの味がした……。
フィルは、理不尽に叱られた子供のような表情を浮かべるレガートを一瞥した。
『腐ってカビの生えたタカタカの実を無理に食べさせられて、泣きながら「美味しいです」って言わされて、我慢できなくて口の物を吐き出したら『部屋を汚すな』と怒鳴られて、蹴られて、肋骨を折ってから大嫌いになったよ!あのときの私にひとの『尊厳』はなかった!」』
しばらく、レガートは黙った。言葉に詰まりながらレガートは言った。
『そんな……酷いこと、すまない。すまない、フィル。でも、解らない。覚えていないんだ……すまない』
フィルは笑う。レガートはそんなフィルを怯えながら見つめる。
レガートへの怒りを押さえながら嘲笑し、フィルは言った。
「都合のいい記憶喪失だね。レガート。早く生命の珠を見たら? 見る勇気がないんでしょ? あなたは人を貶めて遊ぶようなことが出きるひとだったんだよ。事実を早く確かめてみれば? 私にはこの事実が一番つらかった」
フィルは続けた
「自分が本気で好きだったひとの本性が見れた。あなたには心底失望した。がっかりした。『されてきたことは、したくない。人を傷つけたくない』そう言っていたのにね。まあ随分と言うこととやることが違うんだね。呆れるよ。ここまでくると称賛ものだね。体力が戻り次第王様に陳情して人間の世界に帰る。あなたとは、婚約を解消する。もう決めてるから」
フィルは、レガートを睨み付け、ふいっと顔を背けた。
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